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第13講 無反応という反応がある

2009年2月28日(土)

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 今年1月末。後期の最終講義が終わった後も、カワン・スタントは早稲田大学国際教養学部2年生で、自身の講義「モチベーション&エデュケーション」を受講していた高木礼子に対して、「話し合いの場を持ちたい」と声をかけ続けた。結果、ようやく高木が教授室を訪れた。

 「もう講義は終わっているのに、なぜこの先生は自分にここまで話し合いをしたいと言っているのか、全く理解できなかった」と高木は振り返る。

 午前中に1時間、昼食をはさんで午後に3時間程度、スタントは高木にヒアリングを続けた。その理由は「なぜ講義に対して何の反応も見せないのか」を探るためだった。

 「周囲の学生を見て、何も感じなかった?」
 「…別に何も感じない」

 「自分の心に少しの変化もなかった?」
 「…特に」

閉じられ続けた心の窓

 長時間にわたるヒアリングですら、それまでの15回の講義と同様、最後までスタントは高木の心の扉を開くことはできなかった。

 高木は成績が中間クラスで、講義にも必ずと言っていいほど出席する。優等生と言っても、差し支えない。だが多くの他の学生と違って、スタントや仲間の話を聞いて目を輝かせたり、表情を変えたりすることもなかった。

 講義の中で、スタントは学生たちに必ずプレゼンテーションを課し、聴き手には質問をさせるようにしている。だが、高木はプレゼンこそこなしたものの、最後まで質問の時間に自らの手を挙げることはなかった。

 高木は、前回の廣松大和のように、周囲が明らかに分かるような問題のある行動をするわけではない。仲間と協調する姿勢をほとんど示さないのはたしかだが、ただしゃべらないだけで、日本語で言う「人様にご迷惑をかける」ようなことはしていない。

「本当に大変なのは、反発どころか、何の反応も示してくれない相手」

 こうした姿を見れば、「今は若者特有の冷めた態度を取っているだけのこと」とか「少し変わっているが、まあ仕方ないな」と思いがちだ。しかし、スタントにとっては、高木は明らかに「異常」だった。

 そう断じたのは、高木がスタントの講義を受けた後に書く3行感想文を見てのこと。高木で、初めの頃にこう記している。

高木礼子の3行感想文

高木礼子の3行感想文

 「私は(ほかの人と違い)それほど絶望していないので、伸びがあまりないと思う」

 あなたの講義を受けても、私は特に大きな変化は期待できない――。そう言い切ったのだ。スタントは冷ややかに自分を記すこの感想文に、格別ケアが必要な学生を意味する「ハティハティ」の印をつけた。前回の廣松の感想文にもつけた言葉だ。

 高木の感想文のその言葉は、一見、自分を客観視しているようだが、それは客観でも何でもなく、自分の世界に他人が干渉することを拒む姿勢が見られる。こうした状態を放置すると、自分の殻に閉じこもり、自分の意思を示す=社会に反応することができなくなってしまう。そうスタントは考えた。

 廣松もスタントにとっては、要注意人物だった。しかし、スタントにとっては、今回取り上げる高木の方が廣松よりも注意を要する人物だった。

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「第13講 無反応という反応がある」の著者

白壁 達久

白壁 達久(しらかべ・たつひさ)

日経ビジネス記者

2002年関西大学経済学部卒業後、日経BP社に入社。日経ビジネス、日経ビジネスアソシエを経て、2015年から香港支局長としてアジア全体をカバーする。2016年8月から日経ビジネス記者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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松﨑 曉 良品計画社長