◎前回までのあらすじ
ジェピー創業者の未亡人の財部ふみが長らく心臓病を患い闘病中だった。ふみはジェピーの大株主でもあった。
ジェピー社長で、ふみの息子である益男は、アメリカ出張中にふみが危篤に陥ったことを聞き、急遽、帰国した。大手電子部品会社UEPCとの間で、ジェピーに不利な合意書に署名する寸前だった。
ジェピー元専務の間中隆三は、当時の経理部員、沢口萌と共謀して会社のカネを横領したとされ、萌とともに会社を追われていた。間中は益男の従兄弟であり、専務時代は益男の右腕としてジェピーを牛耳っていた。
ジェピー長野工場では、経理部長の団達也のアイデアが功を奏し、工場の4ラインすべてが黒字化。1カ月間の在庫滞留資金量は3割ほど減少した。売り上げも利益も増えたために、運転資金は減少した。
さらに、ロボット作りの天才、金子修平が作ったロボットが完成。アジア向けに輸出されようとしていた。
携帯電話が鳴った。間中は黙ったまま相手の話を聞いた。
「そうか。きみもつらいだろう。でも、今が正念場だ。陰ながらきみを応援している」
ふみが息を引き取ったのだ。連絡をしてきたのは益男だった。叔母が亡くなったというのに、間中は笑いがこぼれそうになった。益男はこんなことを言った。
「間中さんには本当に、ご迷惑をおかけしました」
達也らの主張を鵜呑みにして、ジェピーから追放したことを詫びたのだ。そして、「団を入社させたことが間違いでした」と続けた。
益男からは、ジェピーが存続しているのは、自分と母親の信用と財産によるものとの思いが伝わってきた。達也の功績など、微塵にも感じてはいないと思われた。間中は益男の性格を誰よりも理解していた。やっと、事態は間中の予想した方向に進み出した。
「益男君。きみの言う通りだな。格好をつけるのは苦手だから黙っていたけれど、ボクはきみとジェピーを守りたかった。そのためには、悪人になるのも厭わなかった」
「そうだったんですね」
「ボクはね、きみがそのことに気づいてくれたことがうれしいんだ。わだかまりも消えたよ」
間中は益男に“兄貴”のような口調で優しく言った。
会話をしながら間中は考えていた。葬儀の連絡だけなら、益男が直接電話してこなくてもいい。しかも、2人は気まずい関係だったからなおさらだ。にもかかわらず、なぜ益男は自分に直接電話をかけてきたのか――。
間中は薄々気づいていた。
益男は、これからのジェピーの経営を相談したいのだ。
間中は株式の所有割合を頭に浮かべた。筆頭株主はふみで持ち分は60%、次が間中の25%、そして益男が10%、残りの5%は従業員持ち株会だ。ふみの所有するジェピーの全株式は益男が相続するだろう。そうなれば、ジェピーは70%を握る益男のものだ。ふみの後ろ盾を失った達也を追い出すのも簡単だ。
萌からの情報では、ジェピーの業績は上向いてきたらしい。それは達也の功績であることを間中は理解していた。だが、会社は上昇基調に乗るまでが大変で、乗ってしまえば、凡庸な者にも社長は務まるものだ。
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