「渋澤 健の資本主義と道徳」

決断の先延ばしは仕事のパッションを削ぐ

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2009年8月20日(木)

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 若い頃を思い出してください。気になる女性/男性をデートに誘ったとします。ちょっとドキドキしながら、良い返事が返ってくるのを待ちます。軽い相づちでも大歓迎です。でも、返ってきた言葉がもし、これだったら?

 「ちょっと考えてみる」

 あなたは、どのように感じますか?

 自分は大人らしい対応ができる。論理的に物事を整理できる。おそらく、彼女/彼は、本当に考えたいのだろう。こんなふうに、行動する前に考えることは当たり前のことだと、自分に言い聞かせるかもしれません。

 また、あなたが楽観論者でもあったらどうでしょう。彼女/彼は、じっくりと考えた後、イエスと答えてくれるはず。だって、デートに誘っただけ。この世の中が引っくり返るような大事を頼んだのではないのだから。それに、自分はそんなに悪い男/女ではない。きっと、一緒に楽しんでもらえるはず! こんな風に、良い返事を待つかもしれません。

 ただ、いずれにしても、返事を待つ間に心の中に小さな変化が生じることは確かでしょう。答えが最終的にイエスであっても、誘った時の晴れやかな気持ちにやや雲がかかって、パッションも少しだけ削られているかもしれません。誘った瞬間だけ感じることができるマジックのような高揚感は、永遠に失せてしまったのかもしれないのです。

前回の英文記事※1をご参照ください。

「考えてみる」という返事に宿るリスク

 人生の些細な一コマを例に出しましたが、私たちは日々、職場で多くの判断を迫られます。部下から仕事の進め方について報告を受け、今後の方針を決断しなければならない。ビジネス・パートナーからメールが入り、今後の仕事を進めるためには契約を結ばなければないと催促される。営業マンから電話があり、注文が積み上がってきているので早めに受注したほう良いと勧められる。

 自分は現場を任されているという責任を自覚していればいるほど、いたずらに即答することはできないでしょう。判断を下す前に、どのような影響が全体に生じるかを慎重に検討しなければなりません。既に進行している他のプロジェクトの情報収集や、関係者の意見を取り入れる必要もあります。対立する意見が存在するのであれば、その意見の持ち主との調整も必要です。

 だから、「ちょっと考えてみる」という返事は、適切な答えであり、筋が通っていると言えます。

 ただ、これは、賢明な答えであったのでしょうか。
 「考えてみる」という答えには、実はリスクが宿っています。自分が全体のこと考えて判断している意図が、相手に見えないというリスクです。不明な理由で決断の意志が延滞されているとしか、相手の目に映らないかもしれないのです。

前回の英文記事※2をご参照ください。

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著者プロフィール

渋澤 健(しぶさわ・けん)

1961年、神奈川県生まれ。渋沢栄一の5代目の子孫。小学校2年生のとき父親の転勤で渡米。83年テキサス大学卒業。87年UCLA経営大学院修了、MBAを取得。JPモルガン、ゴールドマン・サックス、大手ヘッジファンドのムーア・キャピタル・マネジメントなどの外資系金融機関を経て、2001年投資コンサルティング会社のシブサワ・アンド・カンパニーを設立。代表取締役に就任。2008年コモンズ投信設立。会長に就任。渋沢栄一記念財団理事、経済同友会幹事 主な著書に『巨人・渋沢栄一の「富を築く100の教え」』(講談社)、『渋沢栄一とヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ―キーワードはオルタナティブ 』(日経BP)、『シブサワ・レター 日本再生への提言』(実業之日本社)など。新著に『渋澤流 30年長期投資のすすめ』(角川SSコミュニケーションズ)。企業の幹部候補クラスを対象にした経営塾「『論語と算盤』の現代的意義」を開催中。詳しい内容はシブサワ・アンド・カンパニーまで



このコラムについて

渋澤 健の資本主義と道徳

明治から大正にかけて日本に近代経済社会の基礎を作った実業家、渋沢栄一。日本で初めて銀行を創立し、日本初の株式制度を導入した「日本資本主義の父」です。栄一が主張したのは「論語と算盤の一致」。すなわち、中国の古典『論語』にある道徳と、“金儲け”である経済という、相容れない2つを融合させることこそ、日本の発展には不可欠という考え方です。混迷を極める世界経済に翻弄され、新たな経済の秩序を模索せざるを得ない現代、栄一の言葉は多くの示唆を我々に与えます。栄一の日本的思想を基に、資本主義とは何かについて考えます。コラムは同じ内容を英語と日本語で交互に連載するスタイルです。日本語は英文の逐語訳としてお読みいただくより、前週に掲載した英文をより深く理解するための独立したコラムとしてお読みいただければと思います。

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