先日の節分の日に、みなさんは「恵方巻き」を食べましたか?
恵方巻きは西日本では以前から馴染み深い食べ物のようですが、関東圏で生まれ育った私にとっては、耳にするようになったこと自体が、この数年のことです。ご存じない方のために念のため補足しますと、恵方巻きとは節分の日に、その年の恵方(縁起の良い方角)を向いて食べる、巻き寿司のことです。その食べ方から、「丸かぶり寿司」や「丸かじり寿司」と呼ぶこともあります。
その起源には諸説あるようですが、今のように人々の生活に定着してきた背景には、ビジネスの視点があった模様です。その仕掛け人となったプレーヤーは、海苔業界と流通小売業界です。
海苔業界としては、年々需要が落ち込みがちな海苔に、注目が集まるような企画が欲しいという思いがあったとのことです。そしてスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの流通小売業界では、節分という非常に認知度の高い歳時イベントに、豆以外の消費を喚起するようなメッセージを投げたかったようです。
そのようにして各業界、各社が恵方巻きを普及させるべく、様々なマーケティング活動を繰り広げた結果、全国的にも認知される行事となったわけです。
コミュニケーションも「食」の役割
これってどこかで聞いたことのあるような話だと感じませんか?
そうです、間近に迫った「バレンタインデー」です。バレンタインデーにチョコレートをあげるという習慣に対しても同じような話、そしてそれに対する批判の声を聞くことがあります。曰く、「あんなのはお菓子業界が、自分たちの利益のためにやっているだけで、けしからん」。曰く、「そんな手に乗って踊らされるのは、まったくもってばかばかしい」。
確かに、恵方巻きやバレンタインチョコは、昔からの風習に便乗した「コマーシャリズム」なのかもしれません。けれども、それを一概に否定すべきかというと、私はそうは思いません。
例えば、「土用の丑の日」のことを考えてみてください。夏の土用の丑の日には鰻を食べると良いらしいというのは、広く知られています。そして、これもその発祥には諸説あるようですが、有力な説の1つが、平賀源内が夏場に消費が落ち込みがちな鰻商売の活性化のために考えたPR(広報宣伝)だというものです。
仮にこの慣習の始まりが、そんなコマーシャリズムだったとします。しかし、実際に夏バテしがちな時期に、多少奮発して鰻を食べることは、生活のアクセントになるでしょうし、たとえ気分だけでも元気になったような気がするのではないでしょうか。
そしてそれ以上に重要だと思うのは、「今日は土用の丑の日だから、久しぶりにみんなで鰻でも食べに行こうか」「今日は鰻を買ってくるから、みんな夕飯に間に合うように、早く帰ってきてね」あるいは「なんで土用の丑の日に鰻を食べるの?」などという会話が、家族や親しい人の間で交わされるのではないかということです。
つまり、ここでは「土用の丑の日に鰻を食べる」という風習が、人と人のコミュニケーションに大いに役立っているということができます。
「食」というものは、生存のために胃袋を満たすもの、あるいは美味を追求するものという側面が大きいのは間違いありません。しかし、「一緒に食べる」という行為を通じて、家族や友人、恋人、同僚などと、コミュニケーションを交わし、つながりを深めるということも、食の大きな役割であるはずです。
土用の丑の日に家族の疲労回復や健康を願う。バレンタインデーに大切な人に思いを伝える。節分の日にその年の幸運や無病息災を祈る。こうして考えると、それがたとえビジネス視点から始まったものであったとしても、1年の節目節目に、人と人とを結びつけるような「食」に関連した行事が存在することは、「決して悪いことではない」と言えるのではないでしょうか。
ただし、バレンタインのチョコレートや恵方巻きなど、「新興勢力」の存在感が増しているのに比べて、古くから伝わる風習や習慣がないがしろにされているのは、問題かもしれません。人日の節句に七草粥を食べる。十五夜にすすきを飾って、月見団子を食べる。冬至にはゆず湯に入り、かぼちゃを食べる。最近では少し地味に感じるかもしれないこれらの行事を、今こそ大切にしていきたいものです。
関係者をどれだけ巻き込めるか
さて、ここからはあえてコマーシャリズムに乗って、これから定着するかもしれない、食にまつわる歳時イベントについて考えていきます。
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カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『







