「食欲に透ける“建前と本音”学」

おいしそうな髪型、むず痒い挨拶

「自分本位の“顧客視点”」という落とし穴

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2010年3月3日(水)

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 突然ですが、今あなたは寿司店にいると仮定してみてください。

 カウンターの中には、同じ年頃の2人の寿司職人がいます。1人は坊主頭の、いかにも昔ながらの職人というたたずまい。そして、もう1人は茶色く染めた長い髪が耳にかかっています。

 さて、皆さんはどちらの職人に寿司を握ってほしいと思いますか?

 ほとんどの人は前者の坊主頭の職人を希望するのではないでしょうか。そしてこのことは寿司店に限らず、ラーメン店でもとんかつ店でも、ほとんどの飲食店に当てはまるでしょう。イタリアンやフレンチのレストランであれば、茶色くて長い髪の男性料理人が「今どきのイケメンシェフ」のように好意的に解釈される可能性はあります。

 それでも、坊主頭がいいかはさておき、「きちんとした髪型」のシェフの方がおしなべて、おいしいものを作ってくれそうな気がするものです。

人手不足は理解できるが・・・

 今は料理人を例に取りましたが、ホールでサービスをするスタッフに関しても、本来は同じことが言えます。短くてすっきりした髪型の男性アルバイトと、「ギャル男」のような髪型をした男性アルバイト、居酒屋でどちらに接客してほしいかというと、圧倒的に前者でしょう。

 飲食店は何と言っても、「料理や飲み物を出すところ」ですから、働いているスタッフには見た目の清潔さが本来は欠かせません。つまり、「おいしそうな髪型」や「おいしそうな身だしなみ」をしていることが非常に大切なのです。

 しかし、世の中の飲食店を見てみると、実際はそうはなっていないようで、長い髪をいじりまわしている従業員を、あちこちの店で見かけることができます。従業員の髪型や身だしなみがお客様にどう見えているかに対して、無頓着な店長や経営者がそれだけたくさんいるということでしょう。

 ただし中には、上に立つ人間がこのようなことを自覚したうえで、見て見ぬふりをしているケースも存在します。と言うのも、「髪を整えなさい」「ヒゲをそりなさい」「髪が茶色すぎる」と注意すると、それだけで店を辞めてしまう従業員がたくさんいる時代なのです。

 ただでさえ人手不足で困っている店では、髪型や身だしなみに多少問題があろうが、働いてくれるだけありがたいというのが本音のようです。

 当人にとっては、見た目が大切な「自己表現」であるというのも、分からなくはありません。けれども、私は飲食店の従業員の髪型や身だしなみは、その店のすべてを象徴していると言っても構わないと考えています。

 これをないがしろにする店は、お客様への言葉遣いや気配り、店内の衛生管理、そして料理や飲み物の品質など、様々な要素に「緩み」が出てくるはずです。

 「蟻の穴から堤も崩れる」という喩えがあります。堅牢に作った堤防も、蟻が作った小さな穴が原因で、最終的に決壊してしまうこともあるという意味です。

 一見、蟻の穴のような些細な点から、全体がダメになってしまうというのは現実的によくあることではないでしょうか。店長や経営者にとって、マイナス1点くらいに思っていることが、あるお客様にとってはマイナス10点であり、またあるお客様にとってはマイナス100点ということすらあるのです。

最重要項目のみを徹底的に指導する

 しかし、これをうまく逆手に取ることも可能です。そのためには、「重要と思われるツボ」に徹底的にこだわるのです。私のよく知る飲食店経営者は、従業員に対しては、言葉遣いと髪型だけをしつこいくらいに注意します。

 本人からすれば、サービスや料理のレベルなど、直したいところはほかにもたくさんあるようです。けれども、そこにはあえて触れません。極端な話に聞こえるかもしれませんが、言葉遣いと髪型さえきちんとしておくことで、その店には緊張感が生まれ、料理やサービスのレベルは自然に上がっていくのだそうです。

 このことは、組織における1つの有効な指導法として、参考にできるかもしれません。一般的に上司や先輩というものは、部下や後輩に対して、言いたいことは山ほどあることでしょう。しかし、小さな欠点やミスまですべてを注意して指導していては、お互いストレスが溜まるばかりです。

 そうではなく、重要と思われる特定の箇所については徹底的に注意をするが、それ以外はあえて見て見ぬふりをする、このようなやり方が現実的には機能するのかもしれません。

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著者プロフィール

子安 大輔(こやす・だいすけ)

子安 大輔カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『「お通し」はなぜ必ず出るのか ビジネスは飲食店に学べ』(新潮新書)を上梓。



このコラムについて

食欲に透ける“建前と本音”学

食品スーパーや飲食店などが続々と登場しては、次々と消えていく――。食欲は、人々の本能であり、物欲が満たされつつある現在、「食」に対する関心と期待は高まる一方だ。そこで、「食」を通じて垣間見える、世の中の事象、そしてその背景にある人々の微妙な心理を取り上げる。人間の“欲”の本質を探ることで、マーケティングのヒントを得られる「視点」を提示していく。

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