「食欲に透ける“建前と本音”学」

「安くて、そこそこ」で、いつまでも満足できますか?

急増する低価格均一料金の裏に人材の空洞化

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2010年3月17日(水)

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 最近、デフレの影響もあり、1品が低価格で均一料金というタイプのチェーン居酒屋が急増しています。料理も飲み物もすべてのメニューが、例えば「270円」のように価格が統一されているのです。利用客にとっては懐にも優しいですし、何を頼んでも同じ値段というのは、とても分かりやすいものです。

 私も先日、都内で300円均一の居酒屋に行ってきましたが、この店舗はとてもユニークでした。まず始めに、店内に置かれた自動販売機で、300円のチケット(レトロなプラスティック製)を自分の好きな分だけ買うのです。

セルフサービスを楽しませる

 そしてそのチケットを持って、料理が並んでいるカウンターや、お酒を注いでくれるコーナーに、自分自身が足を運びます。普通の居酒屋のように、店員が注文を取ってくれるわけではありません。それぞれの場で、チケットと料理や飲み物を「交換」するわけです。

 正直に言って、1つひとつの料理の味は、私にとってはそれほどおいしいと思えるものではありませんでした。けれども、チケットを握りしめて、「さて、何を頼もうか」とキョロキョロするのは、何となく童心に返った気がしてとても楽しいものです。

 この店舗は、とかく「300円均一」という点が目立ちますが、飲食店の経営という観点で眺めると、また違った一面が見えてきます。

 70〜80席もある、それなりに大きなサイズにも関わらず、働いているスタッフを数えてみると、厨房スタッフも入れてたった5〜6人だったのです。通常の居酒屋ならば最低でも10人は必要な規模ですから、人件費を相当抑えることに成功しています。

 客席に出向いて注文を取ったり、あるいは会計をしたりする手間が、すべて省けてしまうので、このような少ない人手で店を運営することが可能なのです(しかも、来店客はそれらを自ら楽しんでやるような仕掛けになっているのが凄いところです)。

 こうして人件費を低く抑えた分、食材や飲み物にコストをかけることもでき、結果的にすべてを300円で提供できる仕組みを作っているわけです。

 これと似たようなものとしては、チェーンの居酒屋や焼肉店、回転寿司などで見かける機会が増えてきた「タッチパネル」の導入があります。客席に置かれたタッチパネルを通じて、店員が近くにいるいないに関わらず、利用客は好きな時に好きなものを注文できるのです。

 このような自動販売機やタッチパネルの普及で人の介在が省かれることに対して、苦々しく思う人もいるでしょう。私自身もどちらがいいかと問われれば、きちんとした店員に注文を取ってもらった方が嬉しいと感じます。

 けれども、実際の飲食店の現場では、いつまでも注文を取りに来てくれなかったり、言葉遣いがまるでなっていなかったりと、サービスのレベルが低いと感じられるケースにも頻繁に遭遇するものです。このような場合であれば、こうした仕組みの導入は、顧客と店舗の双方にとってメリットがあると言えるでしょう。

 飲食店において、サービスレベルの低下や、マニュアル的な接客の是非を問う声はよく耳にすることがあります。しかし、私は日本のサービス業のホスピタリティは総じて高いレベルにあると思っています。

 アメリカで飲食店を経営している人から、こんな疑問を投げかけられたことがあります。「アメリカでは、チップのために、みんなニコニコと笑顔を振りまいて接客をしている。日本では一般的にはチップの習慣はないのに、なぜみんなあんなにちゃんと仕事をするんだろうか?」

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著者プロフィール

子安 大輔(こやす・だいすけ)

子安 大輔カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『「お通し」はなぜ必ず出るのか ビジネスは飲食店に学べ』(新潮新書)を上梓。



このコラムについて

食欲に透ける“建前と本音”学

食品スーパーや飲食店などが続々と登場しては、次々と消えていく――。食欲は、人々の本能であり、物欲が満たされつつある現在、「食」に対する関心と期待は高まる一方だ。そこで、「食」を通じて垣間見える、世の中の事象、そしてその背景にある人々の微妙な心理を取り上げる。人間の“欲”の本質を探ることで、マーケティングのヒントを得られる「視点」を提示していく。

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