「食欲に透ける“建前と本音”学」

200円台の牛丼と2000円以上する食パンは、「二極化」の象徴なのか?

分かりやすさと思考の単純化は紙一重

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2010年4月14日(水)

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 すき家、250円。松屋、250円。吉野家、270円。

 期間や地域を限定しているとは言え、これは4月のある時点での「牛丼並盛り」一杯の値段です(ただし、松屋の場合、メニュー名は「牛めし」)。

 各チェーンが春商戦ということで、そろって値引きを敢行したのです。メディアでも「デフレ時代の牛丼戦争」のようにして取り上げられていましたので、この情報を目にした人も多いかもしれません。

 ちなみに、それぞれの1杯当たりの値引き額は、すき家が30円(通常280円→250円)、松屋が70円(通常320円→250円)、吉野家はなんと110円(通常380円→270円)です。

 『牛丼一杯の儲けは9円』(坂口孝則著、幻冬舎新書)という本があるくらいですから、この値引きは各企業にとっては、苦渋の決断だったに違いありません(あるいは、文字通りの「苦肉」の策とでも言いましょうか・・・)。

 特に吉野家ホールディングスは、4月6日に発表した2010年2月期の連結決算予想では、最終赤字を89億円としていますから、非常に厳しい状況に置かれています。

 あらゆる生産・消費行動が「デフレ」という言葉に引きずられていますが、「食」は毎日の生活に密着しているだけに、その影響をもろに受けているようです。

 実際、「食」の領域で最近話題に上るものと言えば、これらの牛丼以外では、「プライベートブランド」「(手作り)弁当」「餃子の王将」「サイゼリヤ」など、「節約」や「低価格」というキーワードを持ったものばかりです。

1.5斤の食パンが2200円!?

 しかし、安いものばかりが選ばれて、高いものが全く売れないのかというと、必ずしもそうとは限りません。

 東京・世田谷に、「ルセット」というパン店があります。こちらの店は、自らを「最高級パン専門店」と名乗るだけのことはあり、初めてその価格を目にすると驚きます。

 「@shokupan(アットショクパン)」という名の1.5斤サイズの食パンが2200円。「@vanilla(アットバニラ)」というデザートパンは4300円。最も高価な「@japan(アットジャパン)」という商品は、なんと7600円もするのです。

 「@(アットマーク)」が付いている、一風変わった商品名から何となく予想できたかもしれませんが、ルセットではすべての商品をインターネットのみで販売しています。しかも原則として、全商品が予約制で、かつ生産時期が決まっているため、欲しい商品がいつでも手に入るわけではありません。

 普通、パン店というのは町に溶け込んでいて、消費者は買いたい時に訪れて、でき立てを買うものですから、このルセットは極めて特殊な形態と言えるでしょう。

 そして何より驚くのは、先に挙げた価格の高さです。「そんなに高いパンを誰が買うの?」と思ってしまいますが、ルセットのウェブサイトには、3月11日時点で「4月お届け分の@shokupanは完売いたしました」と記載されていますから、この不況下でもきちんと売れているようです。

 ルセットのブーランジェ(パン職人)であり、COO(最高執行責任者)でもあった方から以前、非常に興味深い話を聞いたことがあるので、少しご紹介したいと思います。

 そもそもルセットは、「パン」という商品カテゴリーへの素朴な疑問からスタートしています。

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著者プロフィール

子安 大輔(こやす・だいすけ)

子安 大輔カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『「お通し」はなぜ必ず出るのか ビジネスは飲食店に学べ』(新潮新書)を上梓。



このコラムについて

食欲に透ける“建前と本音”学

食品スーパーや飲食店などが続々と登場しては、次々と消えていく――。食欲は、人々の本能であり、物欲が満たされつつある現在、「食」に対する関心と期待は高まる一方だ。そこで、「食」を通じて垣間見える、世の中の事象、そしてその背景にある人々の微妙な心理を取り上げる。人間の“欲”の本質を探ることで、マーケティングのヒントを得られる「視点」を提示していく。

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