「食欲に透ける“建前と本音”学」

豊かな食生活と、失われる「農への想像力」

生産者が紡ぎ出すストーリーを消費者は求めている

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2010年6月16日(水)

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 この1〜2年、東京の都心部において「ファーマーズ・マーケット」を見かける機会が増えています。ファーマーズ・マーケットとは、農産物やその加工品などを路上や広場で販売する「青空市」のようなものです。

 代表的なものに「マルシェ・ジャポン」という名のプロジェクトがあります。これは飲食店情報サイトを運営する「ぐるなび」が全体を取りまとめているものですが、都内では青山、六本木、赤坂、お台場、浅草など、あちこちのエリアで、ほぼ毎週土日に開催されています。札幌、名古屋、大阪、福岡など、東京以外の大都市でも定期的に開かれているようです。

 私自身、それらのファーマーズ・マーケットには、しばしば足を運んでいます。普段目にすることのない野菜に出会うこともできますし、生産に携わっている方が会場で売り子をしていることも多いので彼らから農産物に関する話を直接聞くことができるのも、大きな楽しみです。

 つまり、ファーマーズ・マーケットにおいては、日常的に訪れるスーパーマーケットとは全く違う「買い物体験」をすることができるわけです。これが支持されている一番の理由でしょう。

都市に「農」の刺激を与える

 一方で、こうした動きに対して、冷めた目があるのも事実です。

 例えば、これらのイベントは、注目を集めている農業に便乗しただけの「ファッション」に過ぎない、という指摘を耳にすることがあります。実際、このようなマーケットが成立するのは、一部の大都市だけかもしれません。さらに、百貨店などでしばしば開催されている物産展と比べてさほど変わりがないとも言われます。

 あるいは、生産者がわざわざ都市部までやってきて販売しても、大した売り上げにはならないのだから、影響力にも限りがあるし、そもそも継続していくことが難しい、と否定的に見る向きもあります。

 こうした批判の影響もあるのでしょうか。先述のマルシェ・ジャポンは、農林水産省から当初は補助金が出ていましたが、行政刷新会議のいわゆる「事業仕分け」によって、その支援は廃止という決定が既に出ています。

 確かに、国や自治体からの支援に頼ることなく、民間ですべてを賄えるのが理想です。しかし、このような取り組みが仕組みとして安定するまでには、多少の時間がかかるのは致し方ないようにも思われます。

 さて、これらファーマーズ・マーケットの最大の意義は、都市部に暮らす人々の「農」に対する意識に刺激を与えることではないか、と私は考えています。

 自分自身のことを考えてみても、都市部で生活していると、よほど意識をしない限り、「農」との接点は皆無と言ってもよいでしょう。野菜や穀物はスーパーでの買い物で済ませることがほとんどです。

 “八百屋さん”で買うことが普通だった頃であれば、目利きのプロである彼らから多少なりとも農に関する情報を聞くことができたはずです。しかし、スーパーの棚に綺麗に陳列された野菜を見た目と価格で選ぶだけ、しかもその野菜からも旬の概念が消えていくと、私たちが「農への想像力」を失ってしまうのは、当然です。

 トマト1つを取り上げても、これは誰がどこで作っているのか、どれくらいの時間がかかっているのか、そこにはどんな苦労があるのか、作り手は何にこだわっているのかなど、背後には様々な要素があるはずです。ところが、実際に私たちがそこに思いを馳せる機会は限りなく少ないものです。

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著者プロフィール

子安 大輔(こやす・だいすけ)

子安 大輔カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『「お通し」はなぜ必ず出るのか ビジネスは飲食店に学べ』(新潮新書)を上梓。



このコラムについて

食欲に透ける“建前と本音”学

食品スーパーや飲食店などが続々と登場しては、次々と消えていく――。食欲は、人々の本能であり、物欲が満たされつつある現在、「食」に対する関心と期待は高まる一方だ。そこで、「食」を通じて垣間見える、世の中の事象、そしてその背景にある人々の微妙な心理を取り上げる。人間の“欲”の本質を探ることで、マーケティングのヒントを得られる「視点」を提示していく。

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