「食欲に透ける“建前と本音”学」

地域住民の日常に寄り添うから存在意義がある――勘違いだらけのカフェビジネス

商業開発プロデューサーの入川秀人氏に聞く(その2)

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2010年6月30日(水)

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(「『押し付け』ではコミュニティは生まれない」から読む)

 耳にする機会は多いながらも、なかなかその実態が見えてこない「カフェ」について、数多くのカフェをプロデュースしてきた入川秀人さんにお話を伺っています。

 前回は、豊洲(東京都江東区)で入川さんが最近手掛けた「CAFE;HAUS(カフェハウス)」を例にとって、その独自の方法論を詳しく聞きました。

 入川さんにとってカフェとは、地域、そしてそこに暮らす人々の日常生活を少しでも豊かにするための、極めて有効なツールであるようです。そのためには、自分たちのやりたいことから発想するのではなく、「その街に何が求められているのか」を徹底的にリサーチするところから始めています。

 今回は、さらに具体的な事例をいくつか紹介する中で、ビジネスとしてのカフェの可能性について、考えていきます。

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入川 秀人(いりかわ・ひでと)氏
入川スタイル&ホールディングス代表取締役/チーフプロデューサー。1957年、兵庫県生まれ。2005年に入川スタイル研究所(東京都渋谷区)を創業、2007年より現職。現在は、生活スタイル研究所(東京都渋谷区)の取締役会長も務める。事業開発から業態開発、街づくり、企業ブランディングまで、幅広い分野を手がけており、特に東急沿線の都市開発やTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、外苑銀杏並木入口にあるRoyal Garden Cafeの店舗プロデュースなどで評価を獲得。

子安 大輔(以下、子安) CAFE;HAUSのケースは、たいへん興味深く伺いました。入川さんが手掛けた他の事例も教えていただけますか?

入川 秀人(以下、入川) 以前、渋谷でユニークなカフェを作ったことがあります。2000年代に入って、IT(情報技術)が急激に盛り上がっていた頃、ITの聖地シリコンバレーと引っ掛けて、渋谷のことを「ビット・バレー」(英語の「渋い=bitter、谷=Valley」と情報量の単位である「ビット=bit」の掛け合わせ)なんて呼ぶようになったことがありました。

 渋谷界隈には起業して株式公開を目指す若者が溢れていましたけれど、彼らは狭いワンルームマンションを自宅兼オフィスにしていたんですね。カフェを出すと決めたエリアを丹念に調べていくと、そんな若者が大量にいることが分かったんです。ですから、渋谷のその地域、そしてそこに暮らす彼らに徹底的に寄り添うカフェを作ろうと決めました。

ランチタイムは午後6時まで

子安 IT系の若者がターゲットということですね。そうすると店の特徴もそれに合わせて変わるわけですか?

入川 まず彼らは時間がものすごく不規則なんです。徹夜で仕事なんていうこともザラですしね。そうすると、普通の企業に勤めるビジネスパーソンのように、毎日お昼どきにきっちりとランチを取ることもないわけです。なので、その店ではランチを午後6時まで提供していました。

子安 午後6時って、もう夜ですよ(笑)。全然ランチではないですよね。

入川 彼らにとっては時間なんて関係なくて、ただ、しっかり食事をしたいだけなんです。僕たちが本気で彼らのニーズに応えようとするならば、午後2時とか午後3時でランチタイムを終わりにしてしまうのではなく、いっそのこと午後6時までやってしまおうというわけです。

 もちろん若者に合わせてボリュームや値段も調整していきます。どんな時間に行ってもきちんと食事ができるという点だけでも、彼らはその店をとても重宝していましたね。

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著者プロフィール

子安 大輔(こやす・だいすけ)

子安 大輔カゲン取締役。1976年生まれ。東京大学経済学部卒業後、博報堂に入社し、飲料・食品・金融などのマーケティング戦略立案に従事。2003年、飲食業界へ転身。2005年に飲食店のプロデュースやコンサルティングを手がけるカゲン(東京都世田谷区)の設立に携わり、取締役就任。起業や独立などのための専門スクール「スクーリング・パッド」(東京都世田谷区)設立にも関わる。2009年、『「お通し」はなぜ必ず出るのか ビジネスは飲食店に学べ』(新潮新書)を上梓。



このコラムについて

食欲に透ける“建前と本音”学

食品スーパーや飲食店などが続々と登場しては、次々と消えていく――。食欲は、人々の本能であり、物欲が満たされつつある現在、「食」に対する関心と期待は高まる一方だ。そこで、「食」を通じて垣間見える、世の中の事象、そしてその背景にある人々の微妙な心理を取り上げる。人間の“欲”の本質を探ることで、マーケティングのヒントを得られる「視点」を提示していく。

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