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理想の女性像

2006年4月28日(金)

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 13歳だの15歳だのといった世代の引き起こす殺人事件に、まったくお手上げの大人社会がある。なぜ? 他人の痛みは? 命の重さは? といった問いに答えを出せないでいる。急にそういう少年になったのではない。ではいつからか? それも答えを出せない。近頃の若者は・・・と思おうとしたら、私の身内にも家で暴れる10代の少年が登場した。私の甥である。

 甥には厳格でまじめな父と、従順で慈愛に満ちた母がいる。彼らが手塩にかけて育てた息子が暴れだしたのだ。思春期、ではかたづけられない深刻な生活空間があった。息子は母親を奴隷のように顎で使い、父を口汚く罵倒した。なぜ世間一般で言われる理想の父母像から、こういう親子関係が登場するのだろうか。

 私はその夫婦が結婚を決意した時のことを覚えている。妻に選んだ理由は「純粋に自分を信じついて来てくれる。尊敬してくれる」といったことが夫側の主な理由だった。結婚以来まさしく妻は夫に従順ですべての判断は“主人”に委ねた。子供を授かってからは家事にいっそう勤しみ、料理に手抜きはなかった。

 そんな妻を「よき妻だ」「よき母だ」と夫はいつも自慢していた。じゃ、なんでそんな両親の所で愛されて育った子が暴れるのか、という疑問にどうしても突き当たるのだ。

従順さは、思考停止と紙一重

 ある日、妻がカレーを作った。私もご馳走になった。私のカレーには肉が一切れも入っていないことにすぐ気づいた。妻は私に「ごめん。肉はすべて息子の皿に入れたから・・・」と言った。その“母であること”の美談に夫は笑った。私は笑えなかった。肉が入っていなかったからではない。その母親感覚にある種の危険さを感じたからだ。

 “母は無条件にすべてを子に捧げる”という姿は、カレーの肉のみならず、母という人格そのものまでも捧げることにならないか。“息子を大切に育てる母”は、“息子の意のままになる女”と直結しないか、とその時思った。

 今ではその母親は、暴れて家をボロボロにした息子にせっせと愛情ご飯を作り、息子に命令されるがままに動き、金銭も渡す。「なぜ拒絶しないのか」と問うと「夫であれ息子であれ、強く命令されると従ってしまう」と私にその母親は言った。

 結婚当初、夫に捧げた従順さは、その夫を乗り越えようとする息子への従順さに取って代わるのだろうか。思考を他人に委ねるトレーニングは、1年や2年で確立するものではない。長年「よかれ」と培った従順さは、思考停止と紙一重だ。愛情の名の下で、従う相手を選ぶ思考からも遠ざかる。

 家族内で問題が手に負えなくなった場合、外部の第三者が介入する社会システムが確立しつつある。相談員から呼び出しを受け、現状を問われた母親は「暴力も振るわないし、金銭だって知れている」と息子をかばって泣いた。

 そんな母親を残し、相談所から息子は自分だけタクシーに乗って帰宅した。「なぜ母親を残して帰ったのか」と叱る父親に「乗らなかったのは母親のほうだ。俺は悪くない」と息子は声を荒げた。遅れて電車で帰宅した母親に「なぜ息子がタクシーに乗るのを黙って見逃したのか」と問うと「私の言うことは息子は聞かない」と言って母親は息子の夕食の仕度を始めた。

 「どんな時でもお袋は俺をかばってくれた」もまた“母であること”の美談であり「何があってもメシを作ってくれた」もまた“母の慈愛”だ。

「遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」」のバックナンバー

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「理想の女性像」の著者

遙 洋子

遙 洋子(はるか・ようこ)

タレント・エッセイスト

関西を中心にタレント活動を行う。東京大学大学院の上野千鶴子ゼミでフェミニズム・社会学を学び、『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』を執筆。これを機に、女性の視点で社会を読み解く記事執筆、講演などを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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安形 哲夫 ジェイテクト社長