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男の威厳

  • 遥 洋子

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2006年5月26日(金)

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 大阪から新幹線の車両に乗るとすぐ、人にドンと当たった。「失礼」とスーツ姿の男性は私に言った。

 見ると、男性はグリーン車両入口に設置された毛布を何枚も確保しようとしていた。すぐ後ろの席だった私は自分の席に座りながら「なぜ何枚も毛布が必要なのだろう」と気になった。男性は最前列の席と次の席を向かい合わせにし、そこに毛布を広げ始めた。

 毛布を置いてみてはまた置きなおす。工夫しながらするその行為はまるで巣作りのようだった。たぶん自分がくつろぐためではない。そうまでしてリラックスしてほしい“誰か”のための準備だ。「いったい誰のためのものだろう」と、その男性がそこまで想いを寄せる人物の登場を私は楽しみにした。

 発車のアナウンスと同時に車両に入ってきたのは、かなりコワオモテの年配男性だった。スーツの男性は直立不動でコワオモテの男性を、自ら手塩にかけた毛布席に案内した。

 「あ、そういう関係なのね」と私は納得したが、次なる疑問に襲われた。コワオモテの男性は一人で乗車した。スーツの男性が毛布を広げたのは合計4席分に当たる。コワオモテがそこにのびのび足を伸ばして身を委ねたのを見て、スーツは安心したように扉の向こうの連結部分に移動していった。

 「え?彼は一人のために4席ぶんもチケットを買ったの?」。いくら大切な人とはいえ、にわかには信じにくい状況だった。「買うか?4席も?」という懸念は、「もし買っていなかったら」という心配になった。やがて女性車掌が乗車券を確認しに来た。

 女性車掌が毛布にくるまったコワオモテに何か言っている。その時車両の扉が開き、スーツが飛び込んできて車掌に言った。「なんでこの方に直接喋るんだ」「お持ちのチケットは1枚ですので・・・」と車掌は返事した。

 「やっぱり」と私は思ったがスーツは負けていなかった。「ここの席の客が来れば、どこか他の席に案内すればいいじゃないか」とスーツは言った。「そんな無茶な」と私は思った。スーツは続けた。「今後何かあれば僕に直接話してください」。そしてコワオモテには「席は僕がなんとかしますからご安心を」と言ってまた連結部分に消えた。車掌は困った顔で、立ち去った。

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