(前回から読む)
「談話室たけくま」へようこそ。編集家、竹熊健太郎氏と、『インターネットの法と慣習』(ソフトバンク新書)を上梓された法政大学社会学部助教授の白田秀彰氏の対談をお送りします。前回は、日本に「著作権」が持ち込まれた経緯を中心としたお話でした。今回は、ネットの世界と現実の世界との間で生じる、著作権の考え方のずれについて語ります。白田秀彰氏のプロフィールはこちらです。
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竹熊 インターネットの時代になって、テキストはもちろん映像、音楽も簡単にデジタルコピーできるようになってきましたが、事実上、著作権への考え方を大幅に修正しないともう立ちゆかなくなるだろうと、僕なんかは思うわけですよ。
白田 著作権法を読んだ上で、音楽業界や出版業界の実務を見れば分かるんですけど、法律の規定とは無関係に、業界慣行が形成されているわけです。
だから著作権法をいくら勉強したところで、実務において「ある作品に対するさまざまな利害」がどうふうに動いているかは全然分からない。だから著作権法が有効に機能しているのは、おそらく「利用者が権利者に無断で複製するのはアウト」という部分だけで、あとの細かい規定に関しては、ほとんど誰も気にしていないというのが実態でしょう。
竹熊 (編集者を見て)転載と引用の違いというものを、はっきり条件も含めて言えますか、ぱっと、すぐ。
編集 うっ、何でしたっけ。引用の分量みたいなものがあるんですよね。これが全体の何割ぐらいを占めたらいけないとか。
竹熊 「主」と「従」の関係ですね。あとはその引用部分を勝手に改変しないというのと、出典を明記する、それが引用であることをはっきり分かるように書くということ、こんなもんですよね。
白田 はい。
業界慣習と著作権の二重構造
竹熊 最近でこそ分かっている編集者は増えてきましたけど、ぱっと答えられる人って、たぶん昔だったら20人に1人ぐらい、本当にいなかったんですよ。僕は漫画の評論などもやっていますが、編集との間ですぐ問題になるのは図版の引用のことなんです。
白田 引用しなきゃ評論はできませんね。
竹熊 ところが、今までは(図版を使うために出典元に)金を払っていたわけですよ。僕が「これは絶対に引用で通るから問題ない」と言っても、もう担当編集者がびびっちゃって。法的にはたとえ問題なくとも、万一クレームきたときのことを考えて、最初からお金を払ってしまうわけ。
いや、お金を払うこと自体が悪いわけではないんですが、そうするとコストがかかるから、引用できる点数に限りが出てくるわけですよ。できれば図版は使わないでくれ、予算枠の中でやってくれと。
また、それ以上に問題なのは、許可をとるということは、断られる可能性もあるということでしょう。引用元によっては、ゲラを見て判断する、内容が気にくわなければ断るなんてところもある。最悪の場合、こちらの原稿を向こうの判断で改変してくる場合もあります。こうなると検閲でしょう。憲法違反ではないですか(笑)。
長年、これにすごく悩まされ続けて。最近なんですよ、ようやっとです。夏目房之介さんが、漫画の批評でも引用を正当に定着させるというので頑張って下さってますから、そのおかげもあるんでしょうね。
内輪で回している分には問題が見えにくいが…
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白田 業界にしてみれば、「がっちりと法律と権利を守っていますよ」という態度を常に外部に対して示さなきゃいけない。業界内で済む話であれば、経費の回し合いでつじつまが合っちゃうわけでしょう。だったら著作権法が要求している以上にお金を払うという慣行をつくっておいた方が、お金のフローが増えた分だけビジネスは増えるということですよ。
竹熊 まさにその通りです。
白田 業界慣行をきちんと調査した上で、現行著作権法がデザインされていれば、まさに今、問題になっている「権利の帰属が不明確なときにどうするのか」とか、例えば著作者の方から絶版要求があった場合に、出版社はどういう対応しなきゃいけないのかということが、きちんと制度として明確になっているはずです。でも、ないわけでしょう。
竹熊 ないない。
白田 ないということ自体が、著作権法というものが明治時代に一種の「お飾り」としてやってきたということの証拠なんですよ。
もし、業界実務の中から著作権法が立ち上がってきたのなら、今、問題になったようなことは全部クリアされたような形で法に規定されているはずです。でもそうではない。ということは、立法者は外国の条約をそのまま日本に持って来たけれど、業界は業界で「お上から著作権法というものが降ってきたけれども、俺たちは俺たちのやり方があるよね。それを守っていこうね」という、完全に二重構造になっているんですよね。
竹熊 それは、出版だけでなく、音楽だって映像だってそうなのでしょうね。
白田 ええ。
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