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【ヒットの“共犯者”に聞く】
映画「時かけ」の場合 II

角川書店・マッドハウスプロデューサーインタビュー その2

2006年12月7日(木)

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映画「時かけ」の場合 II

-- しかし、普通に考えれば、これまで6回も「時をかける少女」を作っているのに、なんで7回目をやるのかってことになりますね。

渡邊 ビッグバジェットの、大きな映画としてやりますと言ってしまったら、もともとこれだけの知名度ですし、それこそ、社運をかける映画になっていったと思います。そうすると、もっと大きな広い層にアピールするように、とか、かつての「時かけ」ファンをどんどん取り込まなくちゃ、とか、「こんなに原作をいじるのはいかがなものか」とか、いろいろあったと思います。

保険がどんどん外されていく…

-- そうなりますよね。それが先におっしゃった「冒険できなくなる」ということですか。

現代の女子高生、新主人公、紺野真琴 (c)『時をかける少女』製作委員会2006
現代の女子高生、新主人公、紺野真琴
(c)『時をかける少女』製作委員会2006
原作ヒロイン、芳山和子はミステリアスな叔母として登場 (c)『時をかける少女』製作委員会2006
原作ヒロイン、芳山和子はミステリアスな叔母として登場
(c)『時をかける少女』製作委員会2006

渡邊 いやぁ、何よりも、今回の企画がスタートした後で、一番、参ったなと思ったのは(細田監督から)「主人公を代えましょう」と言われた時ですよ。

-- 主人公、すなわち原作の骨子ですよね。原作の主人公、芳山和子に代わって、新ヒロイン、紺野真琴が登場する。

渡邊 監督には「いいですね、そうしましょう」と言いながら、内心は「…これ、会社にどう説明したものか」でした。だってそれは、「保険」を外すということですから。「時をかける少女」なのに「芳山和子」ではありません…、と言ったら、「君、何を作るつもり?」って言われますよね。

齋藤 残る保険は、タイトルだけですね。

渡邊 タイトルも変わるかもしれないじゃないですか。むしろ監督から「変えろ」と言われる、それも考えておかなければいけないかもしれない。

-- タイトルと主人公の名前すら変える覚悟がいるお仕事だったわけですか。

渡邊 でもそこは、丸山さんとも相談した、優れた「小品」を作るという規模を守って、リスクを減らして作る体制を組むので口出しはしないでと…。上司もその辺は、あうんの呼吸で了解してくれました。

-- なるほど。

渡邊 いろいろありましたよ。「時をかける少女-××」とか、サブタイトルを付けろとか。でもサブタイトルを付けると、どうにもしっくりこない。そこで「まあ、まあ」と言いながらなんとなくごまかして、やりたいようにやれたのは良質な「小品」を作るという前提があったから。

-- そうは言っても「もっと儲けろ」というようなプレッシャーはあったと思うんですが。

小規模、非正規だから「投資」もできた

渡邊 僕の所属は、以前はアニメコミック事業部の雑誌グループというところでした。ところが、そこで雑誌を作っていたやつが、なぜかプロデューサーとして映画を作っちゃった。つまり、角川本来の、映像を制作する企画会議や年間計画とは、違うところでスタートしてしまったんです。

-- 非正規部隊として始まった。

渡邊 会社の中でも、あまりない形でのプロジェクトだったと思います。あぁ、プロジェクトと言うと、何人も働いているように聞こえますけど、僕と、前述の井上と安田がいて、その3人だけだった。

 要するに、会社の中で「これはビッグプロジェクトになり得る」と認知される機会があまりなかったとも言えますね。その後メディア部という映像と雑誌出版を統括編成した組織になったので、その辺は解消されたんですが。

-- それがちょうど良いバリアーにもなったわけですね。

齋藤 別の言い方をすれば、人と未来に対する投資ですよ。

 マッドハウスとしては、今回「細田監督が創りたいと思うことを全力で実現させる」というのが、まず大原則としてあった。ただ、マッドハウスも企業ですので、企業としての利益追求という側面も、同じように大原則としてあるわけです。

 ただ、それを押してでも、幾多とあった企業としてのリスクや、スキームとしての課題を容認し、丸山をはじめ経営陣皆が「やろう」と決断出来たのは、細田監督にマッドハウスという新天地で、監督が表現したいことを、自由に、最大限に発揮して、未来へ、彼の新しい息吹を吹き込んだアニメーション作品を生み出して欲しかった。その気持ちがあったからだと思います。

 ビジネス的にもっと突っ込んで言えば、トータルとしてのビジネスの裾野を開拓し、拡げ、利益を生み出していくには、作家やコンテンツを育てるという投資が必要なわけです。

「いいものを作る。売るのは後から考える」

―― 将来、マッドハウスで、例えば「もののけ姫」クラスの作品を生んでもらうために、そういう投資が必要だと。

マッドハウス 制作プロデューサー 齋藤優一郎氏
マッドハウス 制作プロデューサー 齋藤優一郎氏

齋藤 まぁ、それ(先行投資)だけではビジネスが立ちいかないのも現実なのかもしれませんが、今、アニメーションだけではなく、きっといろいろな分野で必要とされ、叫ばれて、でもどこも、なかなか為し得ない「人」と「未来」への投資。これをマッドハウスは昔からやってきましたし、それを必要と信じる気持ちが渡邉さんにも僕にも、柱としてあったと思うんです。

-- それは言い換えると、出来上がる作品に対する自信と、細田監督、こいつならやるだろうという確信があったということですね。

齋藤 今回の企画の「勝負所」は、細田守という、これから世界へと進出していく才能を持つ演出家の才能を、どれだけ結実化させ、具現化していくことが出来るか。そのために、筒井先生から「時をかける少女」という素晴らしい原作を託して頂き、そして、彼が考えることを、それこそ100%具現化してみせようと、多くの優秀なスタッフが結集してくれた。渡邉さんも僕も、プロデューサーとして、そこがすべての出発点であり、始まりであり、今を形作ったもの。最初から一致しているんです。

-- なるほど。では、「細田監督によるアニメ化」に、商売を預かるプロデューサーとしては、どんな心積もりで関わられたんでしょうか。

渡邊 監督は監督で心積もりというのがあると思うんですけど、角川プロデューサーとしての僕の心積もりは、戦略的なことではなくて、まず、「いいものを作る。売るのは後から考える」だったんですよ。

-- 普通逆ですよね。「それ売れるの」とまず考えますよね。なのに、「いいものを作る。売るのは後から考える」。ちょっときれい事にも聞こえますが。

渡邊 売ることを先に考えて作品を作ってしまったら、それはちょっと不安だな、と。いいものを作って、それをどう売るか考えることの方が健全だろうと思っています。マッドハウスの丸山さんも、わりと同じような思想なんじゃないかなと勝手に思ってますけどね。

-- しかし、最初の企画段階では、渡邊さんはまだ細田監督と直接のお知り合いではなかったそうですね。ここが非常に興味深いです。渡邊さんは、なぜ細田氏にそこまで信頼を寄せることが出来たのですかね。

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「【ヒットの“共犯者”に聞く】
映画「時かけ」の場合 II」の著者

山中 浩之

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス副編集長

ビジネス誌、パソコン誌などを経て2012年3月から現職。仕事のモットーは「面白くって、ためになり、(ちょっと)くだらない」“オタク”記事を書くことと、記事のタイトルを捻ること。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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