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山崎まさよしのギターを鳴らす「一爪入魂」

(池田工業の巻:後編)

  • 双里 大介

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2006年12月26日(火)

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(文中敬称略)

 池田直紀にとって、工場は遊び場だった。今も工場の中には、幼い直紀が記した落書きが残っている。

三代目、池田直紀氏
工場内には彼の幼い頃の落書きが残る
三代目、池田直紀氏。工場内には彼の幼い頃の落書きが残る

 直紀が後継ぎとして入社したのは、25歳の時だった。工場には、祖父、父、母がいつもいた。日に日に成長していく直紀を、家族は汗をかきながら働く傍らで、大切に見守り続けてきた。そこは、家族みんなの居場所だった。

 祖父がその原型を形づくり、父が機能を加え、池田工業のピックは数多くの楽器メーカーからOEMでの製作を依頼されるようになった。時には、アーティストが直接、工場見学に足を運ぶこともある。あるアーティストは、1枚1枚、丁寧に作られていくピックの製作工程を見てこうつぶやいたという。「ピックについて考え直さないと。ライブで投げるのがもったいない」。

 直紀は、特別な形状が求められるピックを作る時は、祖父が作った古い足踏み式の型抜き機に向かう。足元のペダルをひと踏みすれば、1枚の型が抜ける。効率は悪いが、この機械でしか作れない型がいくつもある。祖父と父が、代わる代わるこの機械に向かっていた背中を、直紀はぼんやりと思い浮かべることができる。

押尾コータローさんも自ら工場にきて注文
工場内で生産途中のピック
押尾コータローさんも自ら工場にきて注文。下は工場内で生産途中のピック

 父は、池田工業が作るピックの機能を飛躍的に向上させた。でも、決して大量生産に乗り出そうとはしなかった。工場にある機械はすべて祖父がオリジナルで作り上げたものだ。部品を手で組み上げ、完成までに1年以上の時間を要したものもある。創業時に祖父が作った機械は、今も現役として稼動を続けている。父は、祖父の機械を決しておろそかにしなかった。

 現役を退いた今でも、祖父は毎日工場に顔を出し、笑顔でパートさんたちと雑用をこなしている。国内でただ1社のピック専業メーカーとなった今、単価を上げれば儲けることはできるかもしれない。しかし、父は決して単価を上げようとせず、無理難題な要求を突きつけられても、決して仕事を断ることはしない。

祖父が作り、いまだ現役の2号機
祖父が作り、いまだ現役の2号機
池田工業の社訓
池田工業の社訓
山崎まさよしが愛用する、池田工業のピック
山崎まさよしが愛用する、池田工業のピック

 年老いた機械。残されたままの壁の落書き。80歳を過ぎても、嬉しそうに働き続ける祖父。そして父は、依頼者の声に耳を傾け、1日も休むことなくピックを作り続けている。「一爪入魂」。父がこの言葉を社訓にしたのは5年前のことだ。直紀は、自分でピックを作るようになってから、この言葉の重みが痛いほどによく分かる。

 「効率を求めるよりも、目の前にある1枚を丁寧に作り上げること」
 「儲けることを考えるよりも、一人でも多くの人に使ってもらえるように考えること」

 「1枚数十円というものへの情熱を感じます。すでにピックはだいたいの形が決まっている商品。そこから進化させることが難しい中、ここまでやってくれるのは池田さんしかない」と語るのは、池田工業のピックを愛用するミュージシャン・山崎まさよしである。ピックで大切なのは“指に対する角度”だという。山崎は、今年のツアーで使用したオリジナルピックの製作を池田工業に依頼した。

 親指にはめる「サムピック」とベーシックな形である「ティアドロップ型」を合わせたような特殊な形状のピック。指にはめた時の角度が微妙に変われば、弦に当たる角度も変わり、ギターの音色も変わる。

 指に対する理想の角度は、もはや数字で表せる領域ではなく、ミュージシャンだけが持ち得る「感覚」の世界だ。


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