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世界の匠になった義理人情の人(その4)

岡野工業代表社員・岡野雅行 ―― 断れない見学

  • 高橋 三千綱

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2007年3月30日(金)

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 下町の岡野工業は、今ではすっかり有名になった。だから工場を見学したい、という人があとをたたない。しかし、希望する人全部を案内していては、仕事にならない。ここは大企業の工場ではないし、広報部もおいてない、100坪弱の町工場なのである。

 だから、今では基本的にすべて断っている。

 ただし例外がある。中学生である。岡野さんが苦笑混じりに話す。

 「修学旅行で、どこにいきたいと先生にきかれて、岡野工業というやつがいるわけよ。普通ならディズニーランドとかお台場とかいうだろうし、優等生ならソニー、松下と答えるだろ、そこで岡野工業というから先生はきょとんとするわけ。なんだそこはとなるわな」

 生徒の説明はこうである。

岡野 雅行氏

岡野 雅行(おかの・まさゆき)氏

1933年東京都墨田区生まれ。72年に父親が創業した岡野金型製作所を継ぎ、岡野工業と社名を改める。「痛くない注射針」「リチウムイオン電池ケース」などを開発し、世界中の注目を浴びる。町工場にこだわり、自らを「代表社員」と名乗る

 毎晩お父さんが熱心に読んでいる本がある。それで、お父さんがいないときに、そっと開いてみた。それを読んで感激したので、是非行ってみたい。

 その本とは『人のやらないことをやれ』(ぱる出版)のことなのであるが、

 「なんでかというと、本をパッと開くと、学校大嫌いと書いてある。そのところだけで、もう頭離れなくなっちゃうんだね。あ、おれと同じだ、となるわけだよ」

 岡野さんは、国民学校高等科を1年でやめている。それからは水泳に興じたり、永井荷風の小説にある、玉の井のおねえさんたちの使いっ走りをしたり、落語を聞きにいったり、金持ちの友人の父親に可愛がられたり、と好き勝手に過ごしている。

 実は、この頃の経験が、その後の人生哲学を岡野さんに植え付けた。人を見る目、付き合い方などが自然に養われたのである。

 たとえば、「自分だけが正しいと思わず、謙虚になって相手の話を聞くこと」

 「いつか、自分もできる範囲で、人のためになにか尽くしたい」

 といった思いが宿った。それに加えて、ベーゴマ遊びに勝つために、父の工場の旋盤機を使って、特殊なベーゴマ作りをしていた。

 工場に入って仕事を手伝うようになったのは、17~18歳の頃からである。

 「おれは学歴がないから、これしかないと思って働いてきたんだけどね。ここへくる中学生もほかの子とは違うんだね。サラリーマンが目的で勉強しているんじゃなくて、なんとかして早く社会に出て、色々なものを覚えたいと思っているんだ」

 工場内はきれいに整頓されている。ナノパス33の注射針は、プレスマシンから秒刻みではきだされている。その向かいでは、別の機械が静かにローリングしている。

 話し声は聞こえない。機械を管理する人が、じっとプレス機をみつめている。騒々しい町工場を思い描いていた人は、拍子抜けするかもしれない。

 「なぜ、中学生だけにしか工場をみせないかというと、大企業にいた人がこの業界にきても、使い道がないからなんだ。いまから金型やれといっても無理なんだ。技術屋は、最低でも20年かかる。だから、中学出て、それこそ年季奉公する覚悟でないと、時間的に間に合わないんだ。専門高校出るとなると、ぎりぎりかな」

 経験が大事なのである。

 ただ、ここにきて見学しただけでは、岡野さんの仕事がどんなものだったかは、想像できない。

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