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世界の匠になった義理人情の人(その5)

岡野工業代表社員・岡野雅行 ―― 講釈師の素養

  • 高橋 三千綱

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2007年4月6日(金)

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 岡野さんは真っ正直な方である。それに加えて義理人情に厚い。とてつもないことを頼んでくる人がいても、その人が、いいやつだと思えば、「やるよ」と答えてしまう人でもある。

 この「やるよ」の返答の中には、仕事を引き受けるということだけでなく、そこにある製品をもっていけ、という場合もある。

 そうなのである。

 岡野工業では、むずかしい精密な仕事だけでなく、単価が安くて、どこの工場でも受けない仕事をやるのを、もう1つの「売り」としている。これは創業以来の信条である。

 それで、安い金属板を使って、円筒形のケースを大量につくるとする。たとえば10万個つくる。そのうち1000個くらいは寸法に若干の狂いがでる。岡野さんはそれらをまとめてスクラップにしてしまう。

岡野 雅行氏

岡野 雅行(おかの・まさゆき)氏

1933年東京都墨田区生まれ。72年に父親が創業した岡野金型製作所を継ぎ、岡野工業と社名を改める。「痛くない注射針」「リチウムイオン電池ケース」などを開発し、世界中の注目を浴びる。町工場にこだわり、自らを「代表社員」と名乗る

 すると、それを買いたい、といってくる生活雑貨屋がでてくる。いったいどこから聞きつけたのだ、と不思議になる。それに、こんな金属ケースなんか一般の人が買うはずはないと思うのだが、相手はそれをチェーン店で売る気でいる。

 岡野さんは、もちろん、だめだ、と断る。しかし相手もしぶとい。これは絶対儲かると嗅ぎつけて、何度もくる。

 しまいに根負けした岡野さんは、

 「わかった。じゃあ、やるよ」

となってしまったのである。やるよ、は文字通り「やるよ」で、ただであげてしまうのである。相手はそれでは申しわけないといって、鉄屑の目方分のお金を支払う。

 商人のしたたかさに感嘆しつつ、岡野さんも、条件をつける。そこは職人の意地である。

 「売値はそちらでつけてもらってかまわないが、本来の値段以上の値をつけて売れよ」

 スクラップで儲けようとするなら、商人の知恵をだせ、と宿題をつきつけるのである。

 しばらくして雑貨屋が満面に笑みを浮かべてやってきて、完売しました、という。それも通常よりずっと高い値をつけたら、どんどん売れたという。なんの変哲もない金属ケースを使って、いろいろと工夫して、生活雑貨として楽しむ人がいるのだという。

 「まだありませんか」

と雑貨屋が訊くので、

 「もうないよ」

 といって帰したのだが、雑貨屋はまたなにか出ましたら、といって帰るのを忘れなかった。そのたくましい商魂にはあきれたが、どんなところにも宝が埋まっている、と見極める商人の目のつけどころにも感心した。

 「職人だって商人と同じ、ぼんやりしていてはだめなんだ。いい取引ができた、これは儲かる、と思って浮かれていてはだめなんだね」

 実直な岡野さんの話に嘘はない。それでいて、聞いている者を楽しくさせるのは、喋りの「間」、というものを会得しているからだろう。若い頃、好きな落語は暗記するほど聞いたというから、その話術には年期が入っている。

 その一端を紹介しよう。

 これは今から35年くらい前の話で、ある電気会社の下請けをしているM社と地元江東区のプレス屋のいきさつである。

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