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世界の匠になった義理人情の人(最終回)

岡野工業代表社員・岡野雅行 ―― 匠のメッセージ

  • 高橋 三千綱

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2007年4月27日(金)

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 岡野金型製作所から、父親に引退してもらって、正式に「岡野工業」になったのは1972(昭和47)年のことだった。

 父親の銀次さんは、会社を息子に任せると、仕事には、一切口を出さなくなった。その2年前から、岡野さんは、プレス加工の製品をつくりだしていて、会社の利益はうなぎのぼりに上昇していたからである。

 「仕事に口は出さないけど、親父はいつももったいないと口癖のようにいっていた。おれが電気つけっぱなしにしていると、それを消して歩いていた。親父はまじめでいい職人だったけど、人とは付き合わず、経営も下手だった。おれはそばでみながら、それではだめだ、とずっと思っていたんだ」

 最初に受けたプレス加工の仕事は、ミツミ電気からの、コイルケースの注文だった。これは、だれもやりたがらない、安い請負い仕事だったが、岡野さんは、それまで4工程かけてつくっていたケースを、1度のプレスで製作できる自動化機械をつくったので、安い報酬でも充分な利益がでた。

 しかし、仕事は大変だった。昼間は近所の奥さんたちにも手伝ってもらうことができたが、夜はひとりでやる。

岡野 雅行氏

岡野 雅行(おかの・まさゆき)氏

1933年東京都墨田区生まれ。72年に父親が創業した岡野金型製作所を継ぎ、岡野工業と社名を改める。「痛くない注射針」「リチウムイオン電池ケース」などを開発し、世界中の注目を浴びる。町工場にこだわり、自らを「代表社員」と名乗る

 製品ができあがると、納品するのだが、それがいつも深夜の出発になる。東向島から府中まで、助手席に奥さんを乗せていく。新宿の歌舞伎町にさしかかると、いつも渋滞に巻き込まれる。

 町には学生や、若いサラリーマンが溢れていた。思えば、私もこの頃は、ディスコでバイトをし、終わると朝まで飲んだくれていた。

 そういう時代に岡野さんは、深夜まで工場で働き、納品をすませると、3時間ほど眠っただけで、また早朝から金型つくりに精を出していたことになる。

 「簡単には、金型屋からプレス屋にはなれなかったね。だれもできないむつかしい仕事をやるといっても、注文はこない。すごい抵抗だった」

 しかし、岡野工業になってからは、岡野さんもライターや口紅ケースなどの高級雑貨を「深絞り」の技術をつかって、金型をつくり、プレス加工まで、一貫してつくるようになっていた。

 「深絞り」の技術というのは、1枚の金属版から、ライターなどのケースをつくることで、それには金型をつかって、何工程もへて形にする。ことに硬いステンレスをつかって、深絞りの技術で、ライターケースをつくる技術は、岡野さんの専売特許だった。溶接をしないのだから、液漏れはない。

 岡野さんの評判はじょじょにあがっていった。

 とはいっても、岡野さんが、プレス屋として正式に名乗りをあげることになるのは、「岡野工業」を立ち上げてから、6年ほどあとのことだ。それまでは、主に金型をつくっていた。

 いまでこそ、リチウムイオン電池ケースといえば、岡野工業と名前があがるほどになっているが、世界で最初に、携帯電話用に製品化するまでは、長い年月がかかっている。

 それこそ、血のにじむような努力が横たわっている。

 「電池ケースは、2ミクロンのメッキ層のついたステンレスを、メッキを壊さずに深絞りで絞ってつくるんだけど、このヒントになったのは、40年以上前につくった水彩画用の絵の具入れなんだ」

 その頃、水彩画用の絵の具は、鉛のチューブに入れられていた。しかし、鉛ではいつしか酸化して、使い手がチューブを持つと、手は黒くなってしまう。それを避けるためには、鉛にメッキをほどこさなくてはならなかった。

 これを製品化する技術が難しいために、どこのプレス屋もしり込みした。これに若き日の岡野さんは挑戦した。

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