今回エルピーダメモリの坂本幸雄さんにお話を伺って、坂本さんがいつも持ち歩いているノートに強い印象を受けた。私の研究者仲間のノートと極めて似ていた。数字と記号が書いてあり、それがエルピーダの利益を上げるための方策であるという。数字を通しての合理性を追求する経営の最も基本的な姿勢を表していると思えた。
数字の背後にはいろんなことがある。会社の生身の人間が働いている現場のいろんな状況がある。それが数字という一見無機質なものに置き換えられている。経営者は数字の背後に様々なドラマや物語を読み取ることができる人なのだ。これは複雑な多次元の方程式を解いているような仕事で、僕が思っていた以上に極めて知的なアプローチをしていると感じた。
それから、会議の時にその場で資料を見たり報告を受けたりするのではなく、意思決定をするものは事前によく勉強して内容をよく頭に入れておくべきである。その哲学は極めて合脳的で、脳というのは情報を入れてからある程度時間が経たないと情報が熟成しないし、決断するのに必要な準備ができない。坂本さんは会議になると、即断即決で決断しているように見える。実は準備の過程は非常に長い。
新しい情報をポンと入れると、最初は単独で入っているけれど、そこにいろんな過去の経験や、関連する事実の情報との結びつきができていく。それは、1時間、1週間、1年、10年、と非常に長い時間にわたってそういうことが行われていく。ワインと同じように、長く経てば経つほど情報というのは熟成していく。
数字をインプットしないと決断はできないわけだし、様々な会社の状況とか半導体市況についての事実を知らないと決断できない。ずっと勉強し続けているような、そういう経営の姿勢に非常に強い印象を受けた。情報のインプットと決断。この2点は、お互いに関係していると思う。
もちろん現代のドッグイヤーの中では、そんなに時間をかけていられない。それでもやはり、1時間前に情報を入れておくのと、すぐその場で情報を入れるのとでは、その情報を取り囲む脳内の文脈が全く違う。だから意思決定をする会議よりも前に、情報を入れておけ、というのは脳の働きからいうと、合理的だ。
ただ、それをやるのはかなり負担が大きいと思う。僕が知っている限りにおいて、日本の経営者は、空っぽで会議に来て、部下が何か言ったことを受けて何か言うといった人が多い。
坂本さんは、倫理観に裏づけられた実践力がある。稀有な人だと思いました。科学者でもそういうことができている人は少ない。学会で聞いて、思いつきで何か言うことはできるかもしれないが、絶えざる鍛錬に裏づけられた英知のようなものを、その場で出せるかどうかはまた別の問題だ。あらゆる職業でそうだと、身の引き締まる思いがした。
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