「茂木健一郎の「超一流の仕事脳」」

即断即決を支える「情報の熟成」

〜経営者・坂本幸雄〜

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2007年5月8日(火)

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 今回エルピーダメモリの坂本幸雄さんにお話を伺って、坂本さんがいつも持ち歩いているノートに強い印象を受けた。私の研究者仲間のノートと極めて似ていた。数字と記号が書いてあり、それがエルピーダの利益を上げるための方策であるという。数字を通しての合理性を追求する経営の最も基本的な姿勢を表していると思えた。

 数字の背後にはいろんなことがある。会社の生身の人間が働いている現場のいろんな状況がある。それが数字という一見無機質なものに置き換えられている。経営者は数字の背後に様々なドラマや物語を読み取ることができる人なのだ。これは複雑な多次元の方程式を解いているような仕事で、僕が思っていた以上に極めて知的なアプローチをしていると感じた。

 それから、会議の時にその場で資料を見たり報告を受けたりするのではなく、意思決定をするものは事前によく勉強して内容をよく頭に入れておくべきである。その哲学は極めて合脳的で、脳というのは情報を入れてからある程度時間が経たないと情報が熟成しないし、決断するのに必要な準備ができない。坂本さんは会議になると、即断即決で決断しているように見える。実は準備の過程は非常に長い。

 新しい情報をポンと入れると、最初は単独で入っているけれど、そこにいろんな過去の経験や、関連する事実の情報との結びつきができていく。それは、1時間、1週間、1年、10年、と非常に長い時間にわたってそういうことが行われていく。ワインと同じように、長く経てば経つほど情報というのは熟成していく。

 数字をインプットしないと決断はできないわけだし、様々な会社の状況とか半導体市況についての事実を知らないと決断できない。ずっと勉強し続けているような、そういう経営の姿勢に非常に強い印象を受けた。情報のインプットと決断。この2点は、お互いに関係していると思う。

 もちろん現代のドッグイヤーの中では、そんなに時間をかけていられない。それでもやはり、1時間前に情報を入れておくのと、すぐその場で情報を入れるのとでは、その情報を取り囲む脳内の文脈が全く違う。だから意思決定をする会議よりも前に、情報を入れておけ、というのは脳の働きからいうと、合理的だ。

 ただ、それをやるのはかなり負担が大きいと思う。僕が知っている限りにおいて、日本の経営者は、空っぽで会議に来て、部下が何か言ったことを受けて何か言うといった人が多い。

 坂本さんは、倫理観に裏づけられた実践力がある。稀有な人だと思いました。科学者でもそういうことができている人は少ない。学会で聞いて、思いつきで何か言うことはできるかもしれないが、絶えざる鍛錬に裏づけられた英知のようなものを、その場で出せるかどうかはまた別の問題だ。あらゆる職業でそうだと、身の引き締まる思いがした。

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勝負の決断はこうして下す
NHKの番組サイトへ
NHK総合テレビ
5月8日(火)午後10:00〜10:43
・再放送
 総合 毎週火曜 午前1:05〜1:49
     (月曜深夜)
 総合 毎週火曜 4:05〜4:49
 BS2  毎翌週水曜 午後5:15〜5:59
番組公式サイト
本・CD・DVD紹介サイト
 5年前、240億円の赤字を抱え行き詰まっていた大手半導体メーカー。新社長が就任すると、わずか2年で150億円を超える営業利益を出す会社に蘇った。社長の名は、坂本幸雄(59)。
 
 その経歴は異色だ。高校野球の監督を目指し、日本体育大学を卒業。しかし、教員試験に失敗し、やむなく就職したのが、アメリカの大手半導体メーカー・テキサスインスツルメンツ。最初に配属されたのは、工場の倉庫係だった。そこから、坂本は、血のにじむような努力を重ね、役員まで上り詰めた。その後、坂本は、身につけた経営ノウハウで、日本国内や海外の半導体企業の立て直しに成功。「会社再建」のプロとして名を轟かせた。
 
 現在、韓国メーカーに奪われたシェア世界一の座を奪い返すために、坂本は大きな勝負に出ている。
 
 巨大マネーが動く坂本の現場に密着し、経済界の熱い注目を集める経営者の流儀に迫る。


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著者プロフィール

茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)

茂木 健一郎

1962年、東京都生まれ。東京大学大学院卒業。「クオリア(感覚質)」を手がかりに、脳と心の謎に挑む新進気鋭の脳科学者。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。



このコラムについて

茂木健一郎の「超一流の仕事脳」

毎回、1つの分野で超一流の仕事をしている人物を追うNHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」。キャスターを務める脳科学者の茂木健一郎氏が、番組を通じてその人物から受けた刺激をさらに深く考察して語るコラム。

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