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「犬のフンまで、メディアに使う」ケッセルスクラマー

エリック・ケッセルス/ケッセルスクラマー/アムステルダム

  • 岡 康道,清野 由美

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2007年5月25日(金)

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 20世紀末。電通のスタークリエイターだった岡康道は、仲間4人と日本初のクリエイティブエージェンシー「TUGBOAT(タグボート)」を設立した。

岡 康道氏

 クリエイティブエージェンシーとは、クライアントと対等な立場で「クリエイティビティ」を追求する、広告業界の新しいビジネスモデルだ。欧米にはこの概念をもとに、時代の1歩も2歩も先を行くクリエイターたちが存在する。

 対して日本の広告業界は、メディア枠を売買するコミッションビジネスがいまだに支配的だ。とはいえ、メディア自体が大きな変化にさらされている今。「クリエイティブファースト」という世界の潮流を、もはや無視することはできない。この潮流は、ひとつ広告業界だけに限ったものではなく、今、日本のあらゆる産業が思考をめぐらせねばならない課題でもある。

 果たして「クリエイティブ」は売れるのか。「クリエイティブ」を売るにはどうしたらいいのか。広告業界をモデルに、世界と日本の現場から、先端の声を集めていく。

 …という大テーマはさておき、世界にはこんなに面白いクリエイターたちがいるのです。岡康道による彼らへのインタビューを、まずはしばらくお楽しみください。


エリック・ケッセルス

エリック・ケッセルス

1967年オランダ生まれ。アートスクールでインテリア、デザイン、絵画を学び、イラストレーターから広告の世界へ。96年にアート・ディレクターのヨハン・クラマーとアムステルダムを拠点に「ケッセルスクラマー」を設立。広告全般のクリエイティブ・デレクションのほかに、ドキュメンタリー映画の制作や写真集出版、展覧会開催など活動は多彩。作品集に『2kilo』(日英併記/ピエ・ブックス)。ケッセルスクラマーのアドレスはhttp://www.kesselskramer.com (写真:Minos Van der Boom)



 ケッセルスクラマーの拠点は、アムステルダムの運河沿いにある古いキャナルハウス。一見、普通の家に見える扉を開けると、ステンドグラスの光に照らされた大空間が奥に出現してびっくりする。

インテリアは、ロンドンのデザインオフィスFATが担当。壮大な聖堂空間が、ひとつの町のようになっている

インテリアは、ロンドンのデザインオフィスFATが担当。壮大な聖堂空間が、ひとつの町のようになっている

 19世紀にはカトリック教会だったという建物は、おごそかな雰囲気を残したまま、かなりユニークなオフィスへと改装されている。祭壇に机が並べられていたり、その真下にある司祭の小部屋を会議室に使ったり。高い場所にある回廊からは水泳の飛び込み板が延びており、エリックが立つとスタッフが「飛び込め~っ」と声をかける。どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかわからない空間は、エリック・ケッセルスという広告界の奇才をそのまま表しているかのようだ。

岡: すごい空間だね。これって日本でいうと神社仏閣をオフィスにするようなもんでしょう。日本人にはなかなかできないよ。バチが当たりそう。

スーツを脱ぎたくなる仕事場

エリック(以下E): ここは1849年のカトリック教会で、修道院も付帯していたんですよね。

岡: 中に入ると、メインの聖堂の横に別のオフィス空間がつながっているんだね。こっちはモダンですっきりしている。

E: そこはかつてのベーカリー。教会関係者のパンを焼いていた場所で、今はグラフィックとフィルムのプロダクションとして使っています。奥の階段を上ると、教会の屋上に出ることができるんですよ。

岡: 聖堂の先にあるステンドグラスがきれいだね。ということはこっちが東なんだ。教会のステンドグラスって、陽の光に向かって掲げられるものだから。僕、ちょっと物知りでしょ。

E: ステンドグラスがきれい、と反応するのは、とても日本人的な感性。僕は日本人のそういうセンスって、大好きですね。

岡: しかし祭壇に机が並ぶ光景というのは、何とも珍妙というか…。

E: そこは戦略プランナーたちが使っているスペースなんだけど、クライアントにもこの机をよく貸してあげるんです。初めは戸惑っても、みんなそのうちに気に入ってね。最初はスーツを着ていた人が、どんどんカジュアルになっていったりして。この下にある、教会の最も古いオリジナルの部屋もお見せしましょう。

――と祭壇の地下の小部屋に行く。

岡: 何だか秘密めいた場所だね。

E: かつての司祭部屋で、今は会議室に使っています。とりわけ困難な会議はここでやることにしているんだ。ここだとみんなOKって言うんだよね。

岡: (苦笑)

――この部屋から別の階段を使って戻ると、そこは「吸烟區」のプレートがかけられた場所。何人かのスタッフが煙草をおいしそうに吸っている。

岡: アムステルダムはいいところだなあ。アメリカと違うなあ。

E: 岡さんはスモーカー?

岡: スモーカーですよ。だからもうアメリカでは不自由しちゃってね。エリックは?

E: 僕は夜だけ吸う「ソーシャルスモーカー」。

岡: あ、そう言うと何だか上品に聞こえるな。

――煙草を吸っていたメンバーのひとりが「岡さん? 僕、TUGBOATの作品、好きですよ。マグライトのキャンペーンなんか、すごくいい」と声をかけてくる。

岡: ありがとう。アムステルダムは本当にいいところです。

……というお世辞の交換をしたところで、本題に入りましょうか。作品集を見てもわかるんだけど、エリックは広告だけでなく、写真集や展覧会、子供向けのTV番組なども作っていて、広告の枠を超えた活動をしていますよね。

E: 僕はアートスクールでインテリアデザインを勉強した後に、イラストレーターをしていたんですが、ひとりで絵を描く作業があまりにも孤独で。それですっかりイヤになって、広告業界に飛び込んだんです。その後、広告に名を借りていろいろな表現をしていくうちに、今では自分が何をやっているのか、わからなくなってきましたね。

どこまでが「広告の仕事」なのだろう

岡: 広告と広告でない仕事の比率はどうなっているんですか。

E: それを分けるのは難しい。ここ数年は、蚤の市なんかで掘り出した古い写真の展覧会に、けっこう熱中しています(「オールモスト・エブリィ・ピクチャー」シリーズなど)。そういう仕事はクライアントがいるわけではないので、広告とは呼べない。でも表現の部分では広告を作ることと同じ。僕は自分が持っているクリエイティブのアイデアで人々を刺激したいから、そのために広告以外のことも積極的に行っているわけです。

エリックが最近凝っているのが、蚤の市で見つけた写真に、もう一度物語を与える試み。スペイン人の女性が写っている古いスナップ写真を1冊の本にまとめたこのシリーズはスペインでも話題になり、無名の女性の身元が後に判明した。服飾デザイナーのアニエス.bもこのシリーズを面白がり、女性のイメージでTシャツを作ったという

エリックが最近凝っているのが、蚤の市で見つけた写真に、もう一度物語を与える試み。スペイン人の女性が写っている古いスナップ写真を1冊の本にまとめたこのシリーズはスペインでも話題になり、無名の女性の身元が後に判明した。服飾デザイナーのアニエス.bもこのシリーズを面白がり、女性のイメージでTシャツを作ったという


岡: それはそうだよね。そのフレキシビリティに関して、電通出身という僕はどうしても固定観念が抜けない。それを超えているところが、エリックから僕が受ける刺激のメインだね。

E: 今はクライアント自体も変化しているし、さらにメディアが超多様になっているでしょう。だったら広告のアプローチも変わらなければならない。でも、クリエイターとしてもっと大事なのは、社会的な問題に意識的であるべき、ということ。それこそが消費者との接点なんだと考えています。

岡: 何かを「宣伝」することではなく、クライアントが抱える問題を「解決」することが広告なのだという考え方は、欧米の一線にいるクリエイターが、一様に口にするんだよね。でもその路線で行った場合、クライアント側の予算は問題にならないんですか。

予算を含めた「解決」を

E: そこも含めての「解決」なんですよね。たとえば90年代に受けたナイキのキャンペーンでは、アムステルダムの中心部にある信号をメディアに使いました。あらゆる信号機の黄色い部分に、ナイキのマークを張っただけなんだけど。

岡: それって警察の許可はいらないの?

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