「岡 康道の世界広告道中記」

映画級の予算で、子供心を動かす広告を作る

アンディ・ファクレル/180 アムステルダム

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2007年6月8日(金)

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バスケットボールのゴールがある180オフィスの庭園と岡 康道氏

 アムステルダムのシンボルである運河。川面に街路樹の影が揺れる閑静な一角に「180(ワンエイティ)アムステルダム」のオフィスがある。

 キャナルハウスと呼ばれる伝統的な邸宅を3棟つなげたオフィスの内部は、編集スタジオも併設された充実ぶり。美しく整えられた庭園の一隅には、バスケットゴールや離れのような会議室。岡が「世界一恵まれた環境にいるクリエイター」という通り、何もかもがスマートで快適なオフィスだ。スタッフ102人の国籍は25カ国以上。それらの国旗がパッチワークのように印刷された旗が、玄関の上で風にはためいている。


アンディ・ファクレル氏

アンディ・ファクレル(Andy Fackrell)

1962年生まれ。英国とニュージーランドで育つ。シドニー、シンガポール、ロンドンの広告会社勤務を経た後、米国ポートランドのクリエイティブエージェンシー「ワイデン+ケネディ」でナイキの広告を手がける。2002年にアムステルダムの「180」に移り、広告界の歴史に残ると言われるアディダスの世界広告の指揮を執る。現在、同社の制作部担当取締役。アドレスはhttp://www.180amsterdam.com


岡: 「180」は日本の若いクリエイターたちもよく話題にしている、注目のクリエイティブエージェンシー(CA)です。特にアディダスの一連の広告は、世界でも群を抜く水準で、僕たちを驚かせました。でも僕も含めて、どのような人たちが作っているのかはあまり知られていない。インスパイアという意味では読者の方ももちろんですが、それ以上に僕が受けるものが大きいと思って、今日は来ました。それにしても、すごくいい環境で仕事をしているんですね。

――通された応接室には楕円形の革張りソファ。エレガントな雰囲気だが、壁には最新のプロジェクターがあり、機能的でもある。コーヒーと一緒にクッキーをふるまわれる。高い窓の向こうに庭園の緑がまぶしい。

アンディ(以下、A): 180は1998年に代表のアレックス・メルビンが、どの大手にも属さない、独立したCAとして設立したんです。アメリカのCA、ワイデン+ケネディで仕事をしていた連中が集まったんですね。その頃のアムステルダムは、「ケッセルスクラマー」や「ストロベリーフロッグ」など、個性と実力のあるCAの設立が続いた時期でね。

アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF
アディダス「+10」 TVCF

アディダス「+10」 TVCF
路地裏のサッカー少年が豪華メンバーを編成して対戦する。少年の夢が詰まった話題のCF。YouTubeならば、Adidas Jose +10、といった言葉で検索するといいかもしれない

岡: 180というネーミングは、どういう意味なんですか?

A: フランシス・コッポラの口癖「常に180度の転換を心がけろ」からつけたんですよね。彼は撮影の時、よく後ろを振り向いてスタッフに言っていたそうです。撮影の技術だけでなく「同じところにとどまるな」という、内面的な意味もあるんでしょうね。

岡: アンディは設立時からの参加ですか。

A: いえ、僕が入ったのは2002年。正直に言うと、アディダスの広告にしても、去年までは自分たちが打ち出していることが、どこまで人々に伝わっているか、まだ半信半疑でした。でも4年目に入ってようやく手応えを感じてきたところです。

岡: 2006年はワールドカップという、アディダスにとっても大きなチャンスがありましたね。それにしても、ワールドカップに照準を合わせた一連のCFにはびっくりしました。こんなことができるんだ、すごいじゃないか、と。

A: 「+10(プラステン)」キャンペーンのことですね。

岡: スペインの路地裏で、ガキ大将の男の子2人が、自分たちのサッカーチームを編成して戦う。そのメンバーが半端じゃない。ベッカム、ジダン、バラック、ランバート…。果てはプラティニ、ベッケンバウワーまで出てきちゃう。プラティニは“将軍”、ベッケンバウワーにいたっては“皇帝”って呼ばれているんだからね。2人の登場には本当に驚いた。

A: 泥だらけのシャツを着ていた2人の男の子は、マドリッドとバルセロナの路上で見つけた素人なんです。彼らもすっかり有名人になっちゃってね。

岡: 中村俊輔がヨーロッパで10人の日本人を探し出して、デルピエロが探した10人のイタリアチームと戦う「+10」も面白かったなあ。

A: 通常、サッカーでいわれる「イレブン」を「ひとり+10人」というように分解して、そこに「スポーツはひとりだけのものじゃないよ」というストーリーを乗せたかったんですね。

岡: そのストーリーにスポーツ好きな少年の心がちゃんとあって、伝わってくるんだよね。スポーツ界のスターを起用する点ではライバルのナイキもそうだけど、ナイキがハリウッド的な展開をするのに対し、アディダスは少年の視点で印象を強く残す。僕は後者の視点により好感を持ちます。そのようなアイデアはどこからくるのですか。

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、サッポロビール、大和証券、富士ゼロックス、リクシル、NTT東日本、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中。近著に「ノンタイトル」(電子書籍)

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。



このコラムについて

岡 康道の世界広告道中記

 20世紀末。電通のスタークリエイターだった岡康道は、仲間4人と日本初のクリエイティブエージェンシー「TUGBOAT(タグボート)」を設立した。クリエイティブエージェンシーとは、クライアントと対等な立場で「クリエイティビティ」を追求する、広告業界の新しいビジネスモデルだ。欧米にはこの概念をもとに、時代の1歩も2歩も先を行くクリエイターたちが存在する。対して日本の広告業界は、メディア枠を売買するコミッションビジネスがいまだに支配的だ。とはいえ、メディア自体が大きな変化にさらされている今。「クリエイティブ・ファースト」という世界の潮流を、もはや無視することはできない。この潮流は、ひとつ広告業界だけに限ったものではなく、今、日本のあらゆる産業が思考をめぐらせねばならない課題でもある。

 果たして「クリエイティブ」は売れるのか。「クリエイティブ」を売るにはどうしたらいいのか。広告業界をモデルに、世界と日本の現場から、先端の声を集めていく。

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