
アムステルダムのシンボルである運河。川面に街路樹の影が揺れる閑静な一角に「180(ワンエイティ)アムステルダム」のオフィスがある。
キャナルハウスと呼ばれる伝統的な邸宅を3棟つなげたオフィスの内部は、編集スタジオも併設された充実ぶり。美しく整えられた庭園の一隅には、バスケットゴールや離れのような会議室。岡が「世界一恵まれた環境にいるクリエイター」という通り、何もかもがスマートで快適なオフィスだ。スタッフ102人の国籍は25カ国以上。それらの国旗がパッチワークのように印刷された旗が、玄関の上で風にはためいている。

アンディ・ファクレル(Andy Fackrell)
1962年生まれ。英国とニュージーランドで育つ。シドニー、シンガポール、ロンドンの広告会社勤務を経た後、米国ポートランドのクリエイティブエージェンシー「ワイデン+ケネディ」でナイキの広告を手がける。2002年にアムステルダムの「180」に移り、広告界の歴史に残ると言われるアディダスの世界広告の指揮を執る。現在、同社の制作部担当取締役。アドレスはhttp://www.180amsterdam.com

岡: 「180」は日本の若いクリエイターたちもよく話題にしている、注目のクリエイティブエージェンシー(CA)です。特にアディダスの一連の広告は、世界でも群を抜く水準で、僕たちを驚かせました。でも僕も含めて、どのような人たちが作っているのかはあまり知られていない。インスパイアという意味では読者の方ももちろんですが、それ以上に僕が受けるものが大きいと思って、今日は来ました。それにしても、すごくいい環境で仕事をしているんですね。
――通された応接室には楕円形の革張りソファ。エレガントな雰囲気だが、壁には最新のプロジェクターがあり、機能的でもある。コーヒーと一緒にクッキーをふるまわれる。高い窓の向こうに庭園の緑がまぶしい。
アンディ(以下、A): 180は1998年に代表のアレックス・メルビンが、どの大手にも属さない、独立したCAとして設立したんです。アメリカのCA、ワイデン+ケネディで仕事をしていた連中が集まったんですね。その頃のアムステルダムは、「ケッセルスクラマー」や「ストロベリーフロッグ」など、個性と実力のあるCAの設立が続いた時期でね。








アディダス「+10」 TVCF
路地裏のサッカー少年が豪華メンバーを編成して対戦する。少年の夢が詰まった話題のCF。YouTubeならば、Adidas Jose +10、といった言葉で検索するといいかもしれない
岡: 180というネーミングは、どういう意味なんですか?
A: フランシス・コッポラの口癖「常に180度の転換を心がけろ」からつけたんですよね。彼は撮影の時、よく後ろを振り向いてスタッフに言っていたそうです。撮影の技術だけでなく「同じところにとどまるな」という、内面的な意味もあるんでしょうね。
岡: アンディは設立時からの参加ですか。
A: いえ、僕が入ったのは2002年。正直に言うと、アディダスの広告にしても、去年までは自分たちが打ち出していることが、どこまで人々に伝わっているか、まだ半信半疑でした。でも4年目に入ってようやく手応えを感じてきたところです。
岡: 2006年はワールドカップという、アディダスにとっても大きなチャンスがありましたね。それにしても、ワールドカップに照準を合わせた一連のCFにはびっくりしました。こんなことができるんだ、すごいじゃないか、と。
A: 「+10(プラステン)」キャンペーンのことですね。
岡: スペインの路地裏で、ガキ大将の男の子2人が、自分たちのサッカーチームを編成して戦う。そのメンバーが半端じゃない。ベッカム、ジダン、バラック、ランバート…。果てはプラティニ、ベッケンバウワーまで出てきちゃう。プラティニは“将軍”、ベッケンバウワーにいたっては“皇帝”って呼ばれているんだからね。2人の登場には本当に驚いた。
A: 泥だらけのシャツを着ていた2人の男の子は、マドリッドとバルセロナの路上で見つけた素人なんです。彼らもすっかり有名人になっちゃってね。
岡: 中村俊輔がヨーロッパで10人の日本人を探し出して、デルピエロが探した10人のイタリアチームと戦う「+10」も面白かったなあ。
A: 通常、サッカーでいわれる「イレブン」を「ひとり+10人」というように分解して、そこに「スポーツはひとりだけのものじゃないよ」というストーリーを乗せたかったんですね。
岡: そのストーリーにスポーツ好きな少年の心がちゃんとあって、伝わってくるんだよね。スポーツ界のスターを起用する点ではライバルのナイキもそうだけど、ナイキがハリウッド的な展開をするのに対し、アディダスは少年の視点で印象を強く残す。僕は後者の視点により好感を持ちます。そのようなアイデアはどこからくるのですか。
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