「やっぱり民間ではダメなんじゃないか」
訪問介護最大手のコムスンが、事業所指定の不正取得などで摘発されたときに、こう思った方は多かったかと思います。「公共性の高い事業に関しては、金儲け第一主義の民間に任せてはいけないんだな」と。
ワタミ 代表取締役社長・CEO
渡邉 美樹 氏
1959年神奈川県生まれ。明治大学商学部を卒業した後、経理会社に半年間勤務。その後、佐川急便のセールスドライバーとして働き、独立資金を貯める。 84年、渡美商事を設立。86年、ワタミを設立し、翌年、ワタミフードサービスに社名変更。96年に店頭上場し、2000年に東証1部上場。2005年春、ワタミに社名変更。外食産業から医療、介護、環境、農業、そして教育などに活躍分野を広げており、教育再生委員会、神奈川県教育委員会のメンバーでもある。(写真:清水 盟貴)
介護ビジネスを手がける者として、私は、コムスンがやったことを弁護する気はまったくありません。同時に、「公共性の高い事業で、民間に任せてはいけないことなど、何もない」と思っています。「民間にできることは、民間で」が、「行政改革」を旗印にしていた小泉純一郎前首相のキャッチフレーズのひとつでしたが、私ならばさらにこう言うでしょう。 「民間にできないことなど、何もない」と。
今回の事件を例に取るならば、民間に任せる前に、厚生労働省が競争のルールをきちんと決めていなかったことが最大の原因だと私は思います。事業者が収益を上げることが、利用者のメリットにつながるような設計図がなかったのです。それどころか、費用削減を安易に図り、事業者の利益を減らす方向へ走ったことが、あのような逸脱につながってしまった。
官がすべきことはたったふたつだけだと私は思います。自由競争のためのルールを決めて、違反した者を厳しく罰すること。そして、セーフティーガードをきっちり組むことです。それがきちんとできていれば、今回のような事件は起きなかったでしょう。
ところが、そう思っていない人たちがいます。官僚の方々です。
「公(おおやけ)の仕事は、すべて官がやるもの」。これが長い間、日本の“常識”でした。「公=官」というわけです。
「小泉行革」はその“常識”を変えようとして、道路事業や郵政3事業の民営化を進めたわけですが、建前では民間に開放されていながら、事実上「官」が牛耳っている「公」的な事業が日本にはまだまだたくさんあります。
それが、私が現在「民」の立場で取り組んでいる「教育」「医療」「介護」「農業」「環境」です。いずれもあらゆる人々が安心して暮らしていくために必要不可欠で、誰もが等しく受ける権利を持っている、真に「公」的な事業です。同時に、典型的な「官」配下の「行政産業」がはびこる分野でもあります。
ご存じのとおり、これらの分野がいま、崩壊の危機に直面しています。
なぜ、子どもたちを育てるための学校で、いじめが起き、自殺者まで生んでしまうのか?
なぜ、患者を治療するための病院で、たらい回しや医療過誤がなくならないのか?
なぜ、高齢者の終のすみかとなるべき老人ホームが、お年寄をぞんざいに扱うのか?
なぜ、日々口にする農産物が、安全・安心ではないのか?
なぜ、科学技術を極めた人間が、地球環境を悪化させ続けるのか?
「官」になくて「民」にあるものは何か?
「官」の立場に立つ人たちは、公的サービスは、民間に任せるとどうなるかわからない。だから「官」が徹底して管理しなければいけないのだ、と主張し続けてきました。その結果がこのていたらくなのです。「官の論理」の行き着く先が、こんなお粗末な社会なのだとしたら……。日本の未来は暗澹たるものです。
『もう、国には頼らない。 経営力が社会を変える!』(渡邉 美樹著、日経BP社、1365円 (税込)
私は思います。本来、「公」の仕事は「民」のためにあるものだ。ならば「官」任せにせず、「民」が自らの力で、「公」の仕事にかかわっていくべきではないか、と。
では、「官」になくて「民」にあるのは、なんでしょうか。
それは、「経営」です。
私は「学校」「病院」「老人ホーム」「農業」「環境」の分野で事業を展開していますが、その手法はきわめてシンプルです。要するに外食産業でやってきたように「経営」をしただけなのです。
逆にいえば、「官」が仕切った世界は、「経営」が不在だったのです。市場を「官」がコントロールしているために、競争が生まれない。ゆえに、ライバルと切磋琢磨しながら顧客によりよいサービスを提供したり、より魅力的な商品を開発することで、売り上げを伸ばし、収益を上げる、といった「経営」努力がまったく必要のない世界だったのです。
その結果どうなったか。
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