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ものづくりに斬り込む意志強固な人(その7)

サキコーポレーション社長・秋山咲恵 ―― 決意の増資

  • 高橋 三千綱

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2007年6月29日(金)

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 身体はくたくたになっているのに、眠れない。それは、まるで悪魔の掌の上で、泳がされているような苦しみだった。

 眠れない原因はたくさんあった。やらなければいけないこと、解決しなくてはいけないこと、さらにすぐに決断を要する事項が、目の前に散乱していた。それらをつなぎ合わせ、積み上げて、会社を前進させていく必要に迫られていた。

 大手メーカーの、エンジニアリング会社として提携する話が進んでいるとき、周囲の人は、それはすごいじゃないか、と素直に感心してくれたが、それを断腸の思いで断った自分のつらい気持ちを、果たして誰が分かってくれているのだろう。

秋山 咲恵氏

秋山 咲恵(あきやま・さきえ)氏

1962年生まれ。奈良県出身。87年京都大学法学部卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。94年、松下電器産業の研究者だった夫の秋山吉宏とともにサキコーポレーションを設立。代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任。政府税制調査会委員、経済産業省の「中小企業政策審議会」委員などを歴任。

 夫の吉宏さんはもちろん、賛成してくれた。だが、彼の視線は会社経営にはなく、検査装置の設計と開発だけに向けられている。それは彼の仕事であり、起業したときからの約束事だったが、咲恵さんには、夫の態度が自分たちがつくった会社という意識が希薄で、それどころか無関心にさえ思えた。

 「大手メーカーのお話をお断りしたあと、ソニーボンソンから、うちと販売提携しましょうというお話をいただいたんです」

 それはある意味、OEM(相手先ブランドによる生産)ビジネスで、大手メーカーの申し出と同じだった。ソニーボンソンは、自分たちに対して好意的で、対等なパートナーとしてみてくれていた。

 すぐに夫に相談した。

 「それもいいんじゃないか」

 そんな答えだった。吉宏さんとしては、

 「それで販売実績が少しでもあがるのなら、会社にとってもいいことなのではないか、睡眠薬を飲んで眠ることもなくなるんじゃないか」

 そんな気持ちから出た言葉だったのだろう。だが、咲恵さんには、起業した同志でもある夫の態度がひどく無責任に思えた。今まで、1人で思い悩んでいたことがらが、脳裏にいっぺんに押し寄せてきて、気がついたときには、夫に殴りかかっていた。それで逆に自分の右腕を傷つけた。

 情けなかった。

 夫には妻のいらだちが分かっていた。

 基板の自動検査機が売れたといっても、まだほんの少しだけだ。それに仕入れにもお金がかかっているし、組み立ても工場に頼んでいて、支出は相当になっているはずだ。

 妻の苦悩は十分に分かりすぎるほど分かっている。しかし、吉宏さんは、妻をなぐさめる言葉をもたなかった。ただ、経営に思い悩んでいる妻をみていて、以前から感じていたことだけを、口にした。

 「そんなに苦しんで頑張ることないよ。駄目だったら、もう一度ふたりで始めればいいじゃないか」

 その言葉を聞いて、咲恵さんは目をあげた。慈愛にあふれた双眸が自分を見つめていた。

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