• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

ちゃんと挨拶できますか?

  • 遥 洋子

バックナンバー

2007年6月29日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 故・横山ノック氏を偲ぶさよならパーティに参加した。葬儀が密葬だったせいもあり、あらためてのパーティは盛大なものになった。私も、ノック氏には生前、可愛がってもらった後輩の1人でもある。関西では、ほかにも多くの先輩芸人さんが、なにかと後輩の面倒をみてくれている。

 その1人が、かつてノック氏と漫才を組んでいた上岡龍太郎氏で、私は氏と長年仕事もご一緒した。氏は今回のパーティの発起人に名前を連ねていた。職場をきっぱりと引退宣言し、それ以来何年経っても文字通りいっさいのメディアに登場しなかった。氏に会おうと、私は会場を探した。

 ステージからこぼれる光が、壁際に立つ氏の横顔を照らしていた。近づいて挨拶しようとしたその瞬間、私は不覚にも涙が止まらなくなった。自分でもその涙の意味が分からず、動揺した。

 “引退”とは、どこかで元気に生きていて、ただ職場を去っただけだと頭では理解していても、いままで当然のように存在した人が突如目前から消える、という意味においては、去られる側からすれば“死”と似ている。

 もちろん元気で過ごしていることは知っているから、日ごろ悲しく思うことはない。しかし、消えた人物が突然、自分の記憶よりもちょっぴり老けて、柔らかな笑顔でもって「久しぶりやなぁ」と目前に現れると、それはまるで、死んだ父親が生き返ったかのような衝撃と懐かしさがあった。私の涙は、頭では「生きている」と知っていても、感覚が「生きていたのですね」という驚愕に動揺したものだった。

 大勢の先輩芸人さんたちが挨拶を述べに壇上に上った。ノック氏の進駐軍時代からの逸話を語る大先輩もいた。それぞれに思い出を語るものの、後輩からすれば、ノック氏の人生のどれほどを理解できたものか、もどかしくもあった。

 知事にまでなったノック氏の最後は被告人だったが、後輩にとっては偉大な芸人さんだった。。しかし偉大であるほど、実はその人生の晩年しか知らないことが多い。美空ひばりさんだって、私は彼女の闘病時代からしか知らないのだから。

 上岡氏が壇上に立った。久しぶりの上岡氏の言葉に会場は固唾を飲んだ。彼は緻密なコンピューターのようにノック氏の経歴を詳細に述べだした。職歴、引越歴、女性歴、趣味歴・・・。共に時代を生きてきた人物ならではの見事な整理された履歴書だった。

 「いつも僕の味方でいてくれてありがとう」。上岡氏が故・ノック氏に述べた感謝の言葉は実はその一言だけだ。それ以外ほとんどの言葉は、ノック氏の人生そのものを語ることにあてられた。
 私は、横山ノックという人物を、初めて知ったような気がした。

「遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

もう中山素平のような人物が銀行の頭取という形で現れることはないだろう。

佐藤 康博 みずほフィナンシャルグループ社長