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人も小鳥も“居場所”を探して

「鳥トウ商店の巻」(後編)

  • 双里 大介

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2007年7月31日(火)

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 勝康は高校を中退している。特別にワルだったわけではない。高校1年生の時は無遅刻無欠席。2年生では進学クラスへ。数学や生物といった理数系が大好きな高校生だった。

 ただ、生活指導の教師との折り合いが悪かった。学校の行き帰りに呼び止められては、引っ張られ、叩かれた。今でも殴られた理由はよくわからない。理由がわからないから、その教師と顔を合わせることが怖かった。次第に学校から足が遠のいていく。高校3年生の新学期を迎えることはなかった。

 その後は、喫茶店でコックを5年、パブの店長を10年以上勤めた。結婚して子どもも生まれた。35歳のとき、夜の仕事から昼の仕事へ変わることを決意した。しかし、何度も書類選考ではねられた。学歴を持たない35歳の男が居場所を見つけるのは、想像以上に厳しかった。

 働かないわけにはいかない。父の店に入ったのは、ある意味「仕方なく」だった。数年ぶりに足を運んだ鳥小屋には、自分と同じように居場所を見つけられないでいる小鳥たちがいた。

 勝康にとって、小鳥は同じ境遇に暮らす同志なのかもしれない。時代に取り残された。社会の最後方で食うだけで精いっぱいの生活を続けている。それでも、確かに生きている。命が宿る。

 競争に負けたものは、その命までも切り捨てられなければならないのか。

ヒナにとって人間は親代わり。1日数回に分けて餌をやり、手乗りにする

ヒナにとって人間は親代わり。1日数回に分けて餌をやり、手乗りにする

 採算ギリギリの八方塞がりの商売。餌さえも切り詰めて商売を営んでいる繁殖家がほとんどだ。当然、ヒナの間引きも行われる。育つ見込みのないヒナは、生まれてすぐ容赦なく殺される。1円にもならない鳥を育てる余裕はない。情け容赦は、自分の首を絞めることになる。

 でも、勝康にはできない。殺せない。間引きした後、商品にならないと判断したヒナを小さな箱に取り分け、育てる。知人の繁殖家から言われた。「餌ひと粒も大切な金だ。わかっているのか」。わかっていないわけじゃない。自分は甘いのだろう。でも、殺すことにはどうしても意味を見いだせない。人は何かを生み、何かを育てるために生きているのではなかったか。

 殺すことよりも生かすことを。命ある物へのやさしさを。未熟に生まれたヒナは、たぶん、それほど長くは生きられない。せめて与えられた生涯をまっとうするまでは、他のヒナたちと同じように、餌を食べさせてあげたいと勝康は思う。

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