どなたにも、この人に会うと元気がもらえる、という人物がいるのではないだろうか。私も自分が少し落ち込んだりした時に、元気をもらいに顔を見に行く先輩女性がいる。
その女性が講師を務める講演案内を見て、楽屋を直接ノックすることにした。
「あら、洋子ちゃん」という明るい声と同時に、彼女は楽屋になっているホテルの一室に私を招きいれた。自著にサインをしながら、私と喋りながら、そして、仕事先にクレームの電話を入れていた。そのめまぐるしさに私は邪魔にならないようにじっとしていた。
「不愉快です。この仕事はキャンセルさせていただきます」と手厳しい声が受話器に放たれていた。私はその担当者ではないが、冷や冷やして肩をすぼませながら考えた。
多少の失礼があったとしても、せっかくの仕事をキャンセルしてしまっていいのか。本気でドタキャンするつもりか。それとも何らかの着地点を計算に入れての戦略か…。
受話器を切った先輩におずおずと聞いてみた。
「本気で仕事を断るんですか?それとも窓口を少し開いているのですか?」
先輩はこともなげに答えた。
「これからが交渉よ。相手の出方を見るわ」
さきほどの怒髪天を衝く怒りが、その先の交渉を見据えてのことだったとは、そのビジネスパーソンとしての手ごわさに私は舌を巻いた。
講演10分前。先輩は「あそうそう」と言い、「昨日ちょうど私が断ったばかりの仕事があるから、それをあなたに回してあげる」と、どこかに電話をした。私はまるで、親戚の家を訪れた姪がお小遣いをもらうように簡単に仕事をもらった。
そして、講演が始まった。「見るでしょ?」と先輩に促されるままに会場に移動した。理屈ではない、笑顔や全身から発せられるパワーのようなものに、会場のファンは盛大な拍手と上気した表情で応えていた。 客全員が彼女に魅了されているのが分かった。
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