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「仕事は、お互いに利用し合うのがいいよね」

  • 渡辺由美子

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2007年8月22日(水)

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 アニメーションの現場は、1作品当たりのべ100人あまりの人間が携わる集団作業の場だ。絵を描く者、脚本、演出、進行、さまざまな職種に分かれた、仕事上の都合がぶつかり合うメンバーを取りまとめ、ひとつの作品を作る、それだけでも過酷なのに、作品には常に新しさ、時代性、採算性が求められる。そして移り気なファンたちは容赦なく叫ぶ。「次!」と。

 そこで生き残ってきた、64歳の「現場監督」が、高橋良輔氏だ。

 高橋氏は、「千と千尋の神隠し」のスタジオジブリを率いる宮崎駿氏、「機動戦士ガンダム」を世に送り出した富野由悠季氏、あるいは「イノセンス」の押井守氏といった、きら星のごとき知名度はない。氏自らが認める。「僕は“天才”ではまったくありません」と。しかし、高橋監督の代表作「装甲騎兵ボトムズ」は、放映から24年を経てこの夏さらに続編が制作され、プラモデルが出れば一度に何万個も売れる。

 そして高橋氏は今も現場に立ち、「戦場カメラマン」や「幕末」を題材にした、誰よりも先鋭的な新作を作り続けている。率いられる若手スタッフからは「なんだか知らないが、高橋さんがいると“働かされて”しまう」と、ぼやきまじりの敬意が聞こえてくるのだ。

 天才ならぬ高橋良輔氏が生き残ることができ、いまだに新しい作品に挑み続けられる理由は何なのか。ひとつの答えは、彼が集団作業の「現場」にとことん強いことにあるだろう。戦略ではなく、局地戦で、塹壕で戦うプロなのだ。

 常に地面を這う目線での戦い方、彼の作品に添って言えば、ヒーローではなくひとりの兵士、「ボトムズ」乗りとしての働き方を、高橋氏がこよなく愛する私鉄沿線の居酒屋で、カウンターに同席した気分で聞いていただこう。

―― 高橋監督は、1983年に「装甲騎兵ボトムズ」で、今の30~40代層を中心に鮮烈な印象を残し、それ以降も、近未来日本を舞台に自衛隊が革命を起こそうとする「ガサラキ」、戦場カメラマンを主役に据え、民族紛争を描く「FLAG(フラッグ)」と、現在に至るまでコンスタントに話題作を作っていますね。そして今は「ボトムズ」の新作「ペールゼン・ファイルズ(10月26日発売、試写会情報を記事末尾に掲載)」を制作中と…ところで、監督はいまお幾つでしたか?

高橋 64歳になりますね。

―― そこは驚くところですよね。アニメの制作現場は、アニメに憧れる若い人がどんどん入ってくる反面、ハードワークなためにどんどん辞めていってしまうという声も聞こえてきます。その現場で制作のすべてを見渡して、スタッフを指揮する監督業というのは、相当な体力、気力が必要だと思うのですが。

 僕ぐらいの年齢のクリエイターも、まだ現場にいますよ。ただ、やっぱり年を取ると数は少なくなりますね。僕がいるサンライズという会社でも、ほとんどのスタッフが年下です。

―― ずっと現場にいたい理由は?

 僕はいつでも新しいことをやっていたいんですよ。アニメーションの中で、どんな新しいことができるかに興味があって。

「売れ筋」を外しても、世界は広がる

―― 新しいといえば、最近、総監督として手がけられた「FLAG(フラッグ)」(製作はアニプレックス)は相当新しかったですね。主人公が戦場カメラマン、だから、画面はすべて、主人公が向けたカメラのフレーム越しという……表現方法として「これがよく実現できたなあ」というか、よく企画が通ったなと思ったくらいです。

「現場監督」 高橋良輔氏

「現場監督」 高橋良輔氏 (写真:大槻 純一、以下同)

 あれはね、僕は原作・総監督であると同時にプロデューサー的な立場でも関わっていたんだけど、プロデューサーとしては“間違っちゃった”作品なんですよね(笑)。

―― え(笑)。

 僕のやりたい方向に振りすぎてしまって。あなた同様、何人もの人に「よくあの企画通ったねぇ」って言われたもの。今現在は、まぁ、そんなに自慢できるような売れ方はしていないし(笑)。

―― 戦場カメラマンと民族紛争が題材では、今どきのアニメの売れ筋、いわゆる“萌え要素”が全然出てきませんしね。

 でも、今現在それほど売れていないからって、全部間違ったとは思っていないんですよ。

 「FLAG」みたいな作品を作ることで、アニメーションの対象になる“素材”というのを1つ広げることができるかもしれない、と思ったんです。

 日本のアニメーションは最初は子供向けとして始まったんだけど、文学性とかファンタジーとかいろんな素材を取り込んでいって、世界に類のない形で発展してきたという歴史があるんですね。

 でも、アニメはもう発達の峠は越えて、頭が天井にぶつかって、今、下がり始めている。プライムタイムからアニメがなくなって深夜に移動して、深夜だから、お客さんはアニメ愛好者に限定されますよね。表現としてはさっきあなたが言ったとおり、公式が見えちゃっているんです。美少女を出せばいい、みたいな。今のアニメは、本数がたくさんあるわりに表現としては広がりが出にくい状況というのはありますよね。

―― なるほど。

 今、当たらなくても、フィルムというのは消滅しちゃうわけじゃないですから。後から出てくるクリエイターで「俺だったら『FLAG』の方法論を使ってもうちょっとうまくやるぞ」という人が出てくれば、また新たな表現方法を獲得したということになるわけで……。だから、作り手としては、それは当たる方がいいに決まっているけど(笑)、当たらなくてもやってみたいということがありますね。

「ひとつひとつ、きちんと成功、しなくていい」

―― でも、ものすごく不思議なんですが、この…当たるかどうか分からない、いえ、相当難しそうな企画を、どのように通されたんですか? アニメ制作会社に限らず、企業は儲からない企画に対してゴーサインは出さないですよね。だから、たいていの人は「この企画は本当に儲かるのかな」と考え込んで、企画を出すこと自体に躊躇しがちなわけですが。

 ああ、僕はまず「ひとつの仕事でそんなに、きちんきちんと成功しなくてもいいんだ」って、思っているんですよね。

―― ええ?

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