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書店革命に挑む不思議な魅力の人(その2)

ジュンク堂書店社長・工藤恭孝――父の背中、父の教え

  • 高橋 三千綱

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2007年8月10日(金)

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 「父とは仲がよくなかった。遊んでもらった記憶もない」という工藤恭孝さんだが、大学を卒業後は、父の会社に入っている。必然的に父の背中を眺めて育ち、その後の商売ぶりも、父の影響を受けているはずである。

 父の工藤淳さんは、1923(大正12)年の生まれで、映画製作会社を倒産させてしまった後は、神戸に“都落ち”して10坪ほどの書店を経営する。33歳のときだった。

 しかし、小売り書店の経営は儲からないようにできている、と判断すると、今度は「キクヤ図書販売」という本の卸問屋を始める。

 小売りの書店が儲からないのは、取次店が利益を吸収する構造になっているからだ、と恭孝さんは、父からさんざん聞かされていた。

 その意味するところを理解するのは、自分が本屋を始めるようになってからだった。だが父は違った。早くから、版元、取次、小売り書店と流れる構造の急所が、喉元の取次にあり、その狭まったところを通さない限り、出版社である版元も、書店も、商売ができないことになっている。つまり、取次、すなわち、大手3社の卸問屋に命を握られているのだと見極めていた。

工藤 恭孝氏

工藤 恭孝(くどう・やすたか)氏

1950年兵庫県出身。72年に立命館大学法学部を卒業後、父親が経営していた書籍取次店のキクヤ図書販売に入社。76年にジュンク堂書店を設立し、社長に就任。現在、大型店舗を中心に鹿児島から盛岡まで全国で27店舗を展開している。

 どの本を仕入れるか、書店に卸すかは、すべて取次の判断にゆだねられる。大書店やチェーン店には、評判になっている本でも、すぐ卸してくれるが、田舎のちっぽけな本屋にはベストセラー本はなかなか到着せず、やっと卸してもらった頃には、その本の人気は落ちているという有様だった。この情況は現在でもさほど変わらない。

 地方の中小書店の苦境はここにある。そこにコンビニなどの攻勢が輪を掛けているからなおさらだ。

 「年商10億円から20億円を超える商いをやることができたのですが、所詮は2次問屋です。年商数千億円という日販、東販という大取次にかなうわけがない。それで父は取次を通さず、直接、版元の出版社から本を仕入れて売る、直販方式をとったのです」

 父の淳さんは「ブックローン」という会社を設立する。1965(昭和40)年のことで、淳さんは43歳。恭孝さんは15歳だった。

 これは百科事典を割賦販売する会社で、この頃、平凡社の『国民百科事典』、小学館の『日本百科大事典』が相次いで刊行された。時期的には、東京オリンピックが開催された前後だった。

 東京の土地はひっくり返され、ビルが建ち並び、川の上には高速道路がうねり、土建業者が相次いで会社を立ち上げ、にわか土地成金があちこちに出現するという時代だった。

 好景気は地方にもおよび、新築の家の居間には、文学全集が並び、百科事典がデーンとふんぞり返っておかれるようになった。

 一方で、放埒な経営の結果、山一証券が破綻一歩手前までいくという事態も起こっている。67年からは、学生運動も盛んになってくる。いわば、人々が浮き足立っている混乱の時代だった。

 その時代を見越したように刊行された百科事典を、父の淳さんは、ローンで販売する。その取引を始める前に、中学生だった恭孝さんは、父から「どっちの百科事典を扱ったほうがいいと思うか」と訊かれている。数少ない、父との直接会話の思い出だ。このとき、恭孝さんは、何と答えたか覚えていない。

 ブックローンが扱うことになったのは、小学館の『日本百科大辞典』だった。淳さんが選んだというより、小学館が、キクヤ図書販売の実績を認めたということだろう。小売店に自ら鉄工所に作らせたスタンドを置き、スタンドルートを開拓して週刊誌を大量に売り、小学館の「小学一年生」をはじめとする学習雑誌の売り上げにも貢献していたことが、信用度につながった。

 このブックローンの試みは、大胆なものだった。各家庭に百科事典を配送し、それから毎月2000円ずつ集金して回るのである。しかも、商品はすべて版元から直接仕入れ、その支払い代金も、自前で調達した。顧客がローンを組むにしても、信販会社を通さず、自社との契約にした。

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