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書店革命に挑む不思議な魅力の人(その6)

ジュンク堂書店社長・工藤恭孝――父に見せたかった京都店

  • 高橋 三千綱

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2007年9月14日(金)

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 「それにしてもお粗末な話やなあ」

 恭孝さんがそう慨嘆したのは、サンパル店が、赤字から始まったからばかりではなかった。もともと書店を始めたのは、父の経営する中取次店「キクヤ図書販売」から、本や雑誌を卸してもらうためだった。いわば卸し先の書店確保のために、チェーン店つくりをする目的だったのだが、「ジュンク堂」が大型店すぎて、「キクヤ」で扱う商品の範囲を、大きく超えてしまったのである。

 「キクヤ」では雑誌の類を主に卸しているのだが、専門書を多く仕入れる「ジュンク堂」では、日販、東販、大阪屋などの、大取次店から仕入れる以外に方法がなくなった。

 病気療養中の父親がしぶい顔をしている、と聞かされて、暗澹たる思いでいたのである。

 そんなときに、知り合いから、神戸三宮のビルの2階に空き室があるので買ってくれないか、と申し出があった。そこはジュンク堂1号店の、斜め向かいにあった。その人には恩義があったので、むげにも断りきれず、

工藤 恭孝(くどう・やすたか)氏

工藤 恭孝(くどう・やすたか)氏
1950年兵庫県出身。72年に立命館大学法学部を卒業後、父親が経営していた書籍取次店のキクヤ図書販売に入社。76年にジュンク堂書店を設立し、社長に就任。現在、大型店舗を中心に鹿児島から盛岡まで全国で27店舗を展開している。

 「6000万円だったら買いますわ」

 といったら、その値で相手のオーナーは了承してしまった。数十坪なので、本来なら卸し問屋「キクヤ」向きの小書店を開くところなのだが、1号店の向かい側では、そんな書店を出しても意味がない。恐る恐る父の淳さんに、どうしたものかと相談した。

 父は、恭孝さんの目の前でしぶい顔をした。そしてこういった。

 「どうしたものかというたかて、お前、もう断れないんやろ」

 「うん、実はそうなんや」

 「そならしょうない、買うておけ」

 父から了解を取り付けたものの、どんな店にしたらいいのか、思い浮かばない。考えあぐんでいるとき、サンパル店のとき廃案になった、コミック店はどうか、という意見が社員からでた。

 「アニメイトと組んだらどうですかね」

 コミック専門店アニメイトは、相当な勢いで伸びていた。相談を持ちかけると、相手側も乗り気になった。それが「アニメイトジュンク」ができるきっかけになった。

 「私はいつも買ってしまったあとで、どうしたものか、と考えるんです」

 そう恭孝さんはいうが、口でいうほど、大雑把な性格ではない、と私は思う。表面下では、一瞬のうちに、冷徹な計算が働く人でもある、とみている。

 サンパル店を開店してから数カ月後、恭孝さんにさらに思いがけない話がもたらされた。

 「京都に出店しませんか」

 そう話を持ちかけてきたのは、取次店の大阪屋からだった。場所は四条通り。閉店した古い銀行のビルがまだ壊されずに建っていた。そこを取り壊して、5階建てのビルを建てる計画があるという。

 「オーナー側には、その1、2階に書店を出したいという意向があるようなんです」

 「合わせて何坪ですか」

 「200坪です」

 その話、ノッた! とすぐにでも飛びつきたい思いをぐっと抑えて、恭孝さんはこういった。

 「5階のビルはうちで建てます。それを一棟全部、使わせてくれるなら、借ります」

 恭孝さんは5歳まで京都で育ち、大学も立命館だ。京都には土地勘がある。どこにパチンコ屋があって、どの路地にうどん屋がある、ということまで頭に入っている。

 かっては河原町より、四条通りの方が栄えていたが、四条通りはいつの間にか、銀行街のようになっていた。若者の姿は圧倒的に河原町に溢れていた。その河原町には、大書店の丸善と駸々堂(シンシンドウ)があった。だが恭孝さんには勝算があった。あの場所なら勝てると思った。

 恭孝さんの提案には、むしろビル側の方が乗り気になった。5階建ての本屋となると、京都大型店対策協議会などの了解を取り付けるのが大変だが、案としては、まず古いビルを取り壊して、更地にしてから、設計に取り組めばいいのではないか、ということになった。

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