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書店革命に挑む不思議な魅力の人(その8)

ジュンク堂書店社長・工藤恭孝――アドレナリン、大爆発

  • 高橋 三千綱

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2007年9月28日(金)

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 「今思い出しても、気味の悪いほど大きくて、オレンジがかった黄色の満月でした。狼男でも出そうな雰囲気やなと、女房と話していたくらいなんです」

 1995年1月16日の夜、香港旅行から工藤さん夫妻は芦屋の自宅に帰ってきた。工藤さん夫妻には、2人の娘さんと男のお子さんがひとりいる。当時、末っ子の長男はまだ幼稚園に通っていた。夫妻は香港にいく前に、泰子夫人の実家の両親に長男を預けていた。実家は神戸でうどん屋をやっていた。

 「戻ってきてから、息子を迎えにいくのは明日にしようと話していたのですが、何か虫の知らせというのか、不安めいたものがあって、やはり今夜中に迎えにいこうということになって妻と出かけたんです」

工藤 恭孝(くどう・やすたか)氏

工藤 恭孝(くどう・やすたか)氏
1950年兵庫県出身。72年に立命館大学法学部を卒業後、父親が経営していた書籍取次店のキクヤ図書販売に入社。76年にジュンク堂書店を設立し、社長に就任。現在、大型店舗を中心に鹿児島から盛岡まで全国で27店舗を展開している。

 神戸に着くと、泰子夫人の両親に礼をいい、息子を車に乗せて芦屋に戻った。満月を見たのは、その帰宅途中だった。何か不吉な予感めいたものを感じた。

 その晩、久し振りで親子3人、畳に川の字になって眠った。明け方、激しい揺れに襲われて、工藤さん夫妻はびっくりしてとび起きる。阪神大震災の直撃を受けたのだ。ふたりの娘の無事を確認して、親子5人で震えていた。息子がいつも寝ているところには、箪笥が倒れていた。夫人の神戸の実家でも、前夜まで息子が寝ていた布団の上に、箪笥が観音開きになって倒れこんでいた。もし、息子を迎えにいかなかったら、死んでいたかもしれない。そして、親子3人で眠っていなかったら…。

 外に出て様子を窺うと、自宅からわずか20メートル下に建っていた家は全壊していた。

 あのときのことを思い出すと、工藤さんは今でも身震いする。地震を感じると身がすくむ。

 だが、この震災のときの工藤さんの動きは俊敏だった。何かが乗り移ったように行動的になった。

 神戸の被害が甚大だと知って、すかさず家を出た。いつも通る2号線はビルや電柱が倒れていて、車の通過はできなくなっているという。そう弟から知らせを受けて、車庫から以前乗っていた古い単車を引っ張り出した。

 それから、43号線をめざして走り出した。途中高速道路が落ちていたが、偶然トンネル状になっている空間があった。その下をくぐった。いくつもある橋にも亀裂が走り、段差ができていた。その段差を、だれかが岩を置いて埋めてくれていた。その上をモトクロスのように走った。あちこちのビルが倒れていた。断層のずれが、被害の大きさを呼び起こしていた。

 「東京大学出版会が『新編 日本の活断層』という本を出したのですが、高額な本にもかかわらず、震災のあと、飛ぶように売れましたね」

 神戸・三宮の1号店の入っているビルは半壊していた。地下は水浸しで書籍は散乱していた。この店は、2カ月後に、本来そろっている書籍の6割程度で仮営業を始めるのだが、震災をうけた書籍の大半が売り物にならなかった。

 神戸・サンパル店はビルが新しかったので、倒壊はまぬがれていた。しかし、店の中は惨憺たる状況になっていた。売り物の天井まで届く棚は、平台から折れて、50万冊の本は、スプリンクラーの水をうけて、床を埋め尽くしていた。集まってきた従業員は、みな青ざめた顔で立ち尽くしていた。

 工藤さんはまず従業員の安否をたずねた。みなで手を尽くして連絡を取り合うと、ひとりの女の子が軽傷を負っただけで、ほかの従業員はみな奇跡的に助かっていることがわかった。  だが、住吉店と芦屋店は壊滅状態にあった。唯一、明石店だけが無事だった。  これを知って、工藤さんは、びっくりするような号令をかける。

 「ようし、サンパル店は2週間後の2月3日に再開する。手の空いているものは、みなここにきて手伝うんや」

 周囲は震災で、焼け野原のようになっている状況での宣言である。みなは唖然としていた。さらに古手の従業員を驚かせたのは、4日後のことである。

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