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我儘を売りにできる創作料理旺盛な人
(その4)

ひらまつ社長・平松宏之――シェフ・ひらまつ、ここにあり

  • 高橋 三千綱

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2007年11月16日(金)

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 天才シェフ、ジャック・デュプランは、28歳の平松宏之さんに、料理人になるための、素晴らしい遺産を残して、30歳の若さでフランス料理界から引退していった。
 平松さんは、あっけにとられると同時に、複雑な思いを抱いた。

 「あれほど天才的な発想を持っていたのに、やめてしまうとは、結局、あの人は料理が好きじゃなかったのかもしれないな」

平松 宏之(ひらまつ・ひろゆき)

平松 宏之(ひらまつ・ひろゆき)
1952年横浜市生まれ。本名、博利。高校卒業後、72年東京YMCA国際ホテル専門学校入学。同時にホテルオークラ入社。82年、東京・西麻布に「ひらまつ亭」開業。2001年パリに出店し、翌年「ミシュラン」1つ星を獲得。レストランやカフェを運営する「ひらまつ」は04年東証二部に上場した。

 そういう思いのほかに、ジャックは平松さんを絶望の淵に落とす言葉を残していった。
 あるとき、何気ない雑談で、自分は本格的なフランス料理をめざす、といった平松さんに対して、

 「日本人にフランス料理がつくれるはずがない。できるのは、せいぜいフランス風日本料理だ」

 こともなげにそういった。
 ジャックは、自分の熱意と料理人としての資質を見込んで、彼の持っている全てを教えてくれたはずだ、そう信じていた平松さんにとって、ジャックの言葉は、心の底に深い傷を残した。

 「おれには本物のフランス料理はつくれないのか。そんな資格すらないというのか」

 ジャックのレシピに従って料理をつくり、スーシェフまで任されていたのに、相手は、はじめから違う国からきた料理人、という思いで接していたのだと知って、それからは懊悩する日がつづいた。その思いは、店が閉じたあとも、平松さんを悩ませることになった。

 ジャックが去り、平松さんは、当時人気になっていた、ヌーベル・キュイジーヌのスマイルにまず勤めた。ここでは数ヶ月のうちにソーシエに登用された。
 次のプチモンモランシーは魚料理が評判の店で、ここではポワソニエを任された。フランスにきてから修業した1年半のうちに、平松さんはどの店にいっても、一目を置かれる存在になり、自分でも、料理人としての創作力が備わっている、と密かに自信を持つようになっていた。

 ただ、ジャックからいわれた何気ないひと言は、尖った鉛のように腹の底深くに、沈殿したものだった。
 そんな平松さんに転機が訪れたのは、フランスに渡って2年数ヶ月がたった頃だった。
 ある大企業の人からスカウトの手がのびたのである。

 「六本木にレストランを出すので、そこのシェフをやってもらいたい」

 平松さんはその誘いを受けた。フランスでの生活は快適ではあったが、シェフとして次のステップを踏むことが、将来、店をもつ上でも重要だと思ったからである。妻の慶子さんもその考えに賛成した。

 ふたりは81年の9月、日本に帰国した。

 ところが、その計画はまもなく頓挫した。連絡が途絶えがちになり、年末近くになって、やっと連絡があった相手からの電話で「出店計画は白紙になった」といわれたのだ。
 大企業といっても、働いているのはサラリーマンである。業績と保身はいつでもついて回る。出店の計画が破棄された理由もきかされずに、それきり連絡は途絶えた。

 さすがに平松さんは途方にくれた。またパリに戻るという選択もあったが、すでに料理人としての修業時代は終わり、これからは、自分の料理を創る、という思いで帰国したのだから、パリに戻るのは気がすすまなかった。
 そんな平松さんの気持ちを察して、救いの手を差し伸べてくれたのは、画商をしていた長兄だった。

 「この際、自分の店を出したらどうだ。資金なら工面するぞ」

 兄弟とはありがたいものである。最初に勤めた赤坂のレストランで、ネギを刻みながら、30までに店を持ってやる、という意気込んだ目標が、兄の励ましで、現実になろうとしていた。
 この機会をはずす手はない。料理人としての自信ならある。

 「ようし、なら、やっちゃおかな。やっちゃえばいいじゃないか」

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