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「大丈夫。おまえを必要としてくれる会社は、いくらでもある」

「中部大学キャリアセンター・市原幸造」の巻

  • 双里 大介

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2007年11月29日(木)

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 学内の掲示板には、企業説明会の告知がズラリと貼り出されている。市原幸造(46)が勤務する中部大学のキャリアセンター(就職支援)にも、3年生が一人、また一人と足を運び、賑やかさを増している。

 秋も深まった11月、今年も就職活動が本格的にスタートした。

市原幸造氏

 大学を卒業後、市原は、かいわれ大根の店頭販売をしていた。販売に使うラジカセとかいわれ大根を車に載せて、県内の至るところにあるスーパーを回った。

 当時はまだ物めずらしい食材だったかいわれ大根。スーパーの軒先で市原は必死に声を張り上げ、行き交う主婦に声を掛け続けた。22歳の市原は思った。「大学を卒業して、なぜオレはかいわれ大根を売ってるんだ?これが本当にやりたいことなのか」。その日のモチベーションを維持するだけでも大変な毎日だった。

 かいわれ大根の仕事は10カ月で辞めた。ただ、振り返れば、この10カ月が自分の「原点」なのだと市原は思う。働く厳しさを知った。仕事とは何か。何度も思いを巡らせた。そして、自分について考えた。誘われるがまま就職を決めてしまった学生の頃とは違う。初めて自分の意志で決断した。だから、思い悩んだこの10カ月間こそが、自分のスタート地点だと思えるのだ。その後、市原は2度の転職を経験。29歳の時に出会ったのが、大学の就職課での仕事だった。就職活動をする学生を支えて18年が過ぎた。今、市原は、口にこそ出して言わないものの「天職に出会えた」と密かに思っている。

 22歳の時、自分が大学の就職課で働くことになるとは、ひとかけらの想像もできなかった。そんな仕事が自分に向いているとは思いもよらなかった。

 しかし、働くとは「そういうことなのだ」と市原は思う。

 就職とは、行き着く先の見えない航海へ出たに過ぎないと、今は実感をもって言える。そこで何かに出会い、ぶつかり、転がり、流れ、形を変えて、いろいろなことに気付きながら、人生は作り上げていくものなのだ。

 学生たちに伝えたいことが山ほどある。就職活動なんて、そんな顔をしかめてするものじゃない。まだ社会の入口に立ったばかりなんだから、人生が決まってしまうような顔をするな。

 それなのに、いつの頃からだろう。単なるスタート地点であるはずの就職活動が、人生のゴールのようになってしまったのは。就職活動は「シュウカツ」と呼ばれるようになった。就職活動をまるでひとつのイベントのように括ってしまうこの言葉が、市原はどうしても好きになれない。

 今年、新卒学生に対する求人件数は、バブル期を上回り過去最大だと言われている。いわゆる「売り手市場」だ。

 来春2008年3月卒業予定の大学生・大学院生に対する民間企業の求人総数は93.3万人と、昨年より10.8万人増加。求人倍率は1.89倍からついに2倍を超えて2.14倍となっている(リクルートワークス研究所調べ)。

 しかし、求人件数が多いにもかかわらず、学生たちの就職はすんなりと決まっていかないのが実状だと市原はいう。

 なぜか?多くの学生が「大手企業や人気企業へ行かなければ、自分は幸せにはなれない」と思っているからだ。東海地区の中堅私大である中部大学の学生たちも、その例外ではない。

 就職活動を始めたばかりのある学生は、何のためらいもなく、こう口にした。「大手企業にしか行くつもりはありません」。バブル崩壊を子どもの目で見てきた世代だからだろうか。最近の学生は大手志向がさらに強まっている。ただ、就職を希望する全員が大手企業に入社できるはずはない。



 それでも、多くの学生が限られた数の椅子に向かって殺到する。それを煽るように就職ビジネスが学生の背中を無理矢理に押す。履歴書対策、面接で好印象を与える方法、エントリシートの書き方、筆記試験の攻略法、自己分析、グループディスカッション、立ち振る舞い、スーツの着こなし……洪水のように流れてくる情報の中を、遅れを取らないよう必死になって前へと進む学生たち。理解するのではなく、まずは情報を頭に叩き込む。受験勉強の時と同じ光景。そこに生まれるのは、同じ顔、同じ考え方、同じ言葉を話す学生たちの姿だ。

「全部で400社くらいエントリーしました。すべての企業とやりとりはできないので、返信されてきた案内のタイトルだけを見て、興味のない会社からのメールは内容を見ずに削除します」

「説明会の時、あえて最後まで残って後片付けの手伝いをする。名前を覚えてもらえるし、印象もいいから。これも活動テクニックのひとつ」。

 市原は学生たちに声を掛ける。「就職ビジネスに踊らされるな」。大手企業が人を幸せにしてくれるとは限らない。そんなものは高度経済成長時代の話だろう?人気企業ランキングに載っている会社なんて、全体から見ればほんの一部だとわかるだろう?

 しかし、採用側である企業もまた「同じ顔」「同じ言葉」で学生たちにこう問いかける。「あなたは社会に出て何がしたいのか」「10年後、20年後にどうなっていたいか」「自分に何ができると思うか」……。すべての学生に会うことは不可能だし効率が悪い。まずは、採用の窓口をパソコンの中で行い、そこで人数をふるいに掛ける。“上手に質問に答えられたもの”だけが椅子取りゲームの先へと進むことができる。

 市原は思う。10年後、20年後のことを正面から答えられる学生が何人いるだろう。まだ社会に出て働いたこともないのに、どうしてやりたいことがわかるのだろう。

 「何もわからないまま」「迷ったまま」で社会に出てはいけないのか。「わからないことを、わからないというのは恥ずかしいことじゃない」といつもは口にしている大人たちが、どうして就職にだけは答えを求めたがるのか。

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