「伊東 乾の「常識の源流探訪」」

伊東 乾の「常識の源流探訪」

2007年11月27日(火)

人の心を見る技術が社会を変える

(CSR解体新書19)製品評価などに使うと有益だが・・・

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 21世紀初めのある日、日本を訪れたインドのIT系企業の社長が、新宿駅前でホームレスの人が新聞を読んでいるのを見て、「ああ、これでは当分、インドは日本に敵うわけがない!」と嘆息したのだそうです。

 いったいどういう意味ですか、と同行した人が尋ねると、

 「だって日本では、文字を読める人が、仕事がなくて路上生活しているのでしょう? 自分の郷里ではこんなことは考えられない。文字が読めれば必ず仕事がある。いやはや日本の人材層の厚さは底知れない、と改めて圧倒されました」

 と、そのインドの社長さんは述べたそうです。以前、大学で同僚だった藤末健三さん(現・参議院議員)から伺った逸話です。

識字率を超える音声動画の影響力

 インドでは大衆娯楽として映画産業が大きく発展しています。「マサラムービー」と称されて日本にも紹介され、ご存じの方も多いでしょう。インドで映画が国民的娯楽として発展する背景には「識字率」の高さ低さが関係しています。

 いまだ「文盲率」の低くない地域では、映画やテレビのような音声動画メディアコンテンツが圧倒的な力を持つ。新聞や雑誌がいくらがんばっても、文字を解さない人には影響を及ぼし得ません。

 しかし映画やテレビなら、目が見え、耳の聞こえる人には、識字能力の有無にかかわらずメッセージを届けることができます。インドで、活字媒体よりもマサラムービーが大産業になる背景がここにあります。

能動メディアと受動メディア

 先週、文字テキストや静止画だけの「ナローバンド・インターネット」から、音声動画をフルに活用する「ブロードバンド・インターネット」への変化は、新聞雑誌からテレビ・ラジオへの変化に等しい、とお話しました。

 この変化は「識字率」的な観点から考えると、さらに色々な問題が明確化されてきます。

 新聞や雑誌など、識字率を前提とするメディアは、読者が自分から読もうとしてアクションを起こさない限り、コミュニケーションの道具として機能しません。これをユーザ能動メディア(「能動メディアuser-active media」)と呼ぶことにしましょう。

 これに対してテレビや映画などは、視聴者が受身のままでもメッセージの方から目や耳に飛び込んで来ますから、影響力ははるかに大きく、識字率の高低に影響されません。これをユーザ受動メディア(「受動メディアuser-passive media」)と呼ぶことにします。

 「受動メディア」は影響する力が強い。だから両刃の剣になりやすく、危険なのです。

メディア・リテラシーとマーケティング

 各種メディアに対する「識字」的な能力(英語でいうliteracy )、とりわけ「視聴者の<批判的、建設的判断力>の涵養を目指すのが「メディアリテラシー」の考え方です。

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著者プロフィール

伊東 乾(いとう・けん)

伊東 乾

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など


このコラムについて

伊東 乾の「常識の源流探訪」

私たちが常識として受け入れていること。その常識はなぜ生まれたのか、生まれる必然があったのかを、ほとんどの人は考えたことがないに違いない。しかし、そのルーツには意外な真実が隠れていることが多い。著名な音楽家として、また東京大学の准教授として世界中に知己の多い伊東乾氏が、その人脈によって得られた価値ある情報を基に、常識の源流を解き明かす。

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