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我儘を売りにできる創作料理旺盛な人
(その6)

ひらまつ社長・平松宏之――経営者の哲学

  • 高橋 三千綱

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2007年12月7日(金)

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 愛弟子、阿部立美の突然の死は、平松さんを、絶望の淵に落とし込んだ。

 調理場に立っても、何もやる気がおこらない。阿部のいない現場に自分がいること自体、なんの意味もないように感じられた。自分の中で何かが抜けてしまっていた。

平松 宏之(ひらまつ・ひろゆき)

平松 宏之(ひらまつ・ひろゆき)
1952年横浜市生まれ。本名、博利。高校卒業後、72年東京YMCA国際ホテル専門学校入学。同時にホテルオークラ入社。82年、東京・西麻布に「ひらまつ亭」開業。2001年パリに出店し、翌年「ミシュラン」1つ星を獲得。レストランやカフェを運営する「ひらまつ」は04年東証二部に上場した。

 四天王のひとりというだけではない。20歳で「ひらまつ亭」に入店してきたときから、阿部には光るものを感じていた。

 平松さんは彼に料理の基本を教え込んだ。それも徹底的にしごいた。阿部もそれに耐えた。地味な修練の繰り返しを、手を抜くことなくやりとげた。

 あと、2年もすれば、阿部の修業時代は終わり、シェフになれることだろう。

 そう予感させられるほど、阿部の才能は伸びていった。シェフに必要なのは、修業時代には求められなかった創造性である。それをどう料理として表現するか、阿部にはそのセンスときらめきが感じられた。

 「阿部はいつか名古屋で店をもつことが夢だった」

 調理場に佇みながら、ぼんやりそんなことを考える日が続いた。
 法要のときにみせた両親の悲しみは、そのまま平松さんの悲痛な悲しみとなって胸を刺した。

 両親は、いつか息子がフランス料理の店を持つときのために、密かにワインを買い集めていた。それをみせられたとき、悲しみは慟哭となって、平松さんに襲いかかった。
 自分はだめな人間だ、と思った。
 過労死ではない。リンパ腺癌になったのは自分の責任ではないかもしれない。
 「しかし、彼らの健康管理に無頓着だった自分を責めた。自分が丈夫なだけに、だれでも同じようにできると思っていた」

 もっと、細心に注意を払ってやれば、死なせずにすんだかもしれない、と平松さんは思い詰めた。

 「ちゃんと見てあげられなかった自分が悔しかった」

 38歳の平松さんには子供がなかった。阿部は14歳下だったが、いつの間にか、自分の子供のように思って接し、情熱をかけて育てていたことにようやく気付いた。

 料理人は家族だ、といつも弟子にいっていた平松さんだったが、阿部に対しては、それ以上の感情移入があったことを思い知った。

 だが、その阿部は、もう調理場に現れることはない。四天王の3人が、魂をなくして茫然とする平松さんを、心配気に見つめる視線さえも感じられなくなっていた。

 「まったくだめでした。何もやる気がおきなかった。料理を創作する意欲も湧かなかった。今でいう軽い鬱病なんでしょうね。それほど阿部の死はショックでした」

 そんな気の抜けた状態が1年ほど続いた。店から逃げてしまおうと思ったこともあった。死んでしまえば楽になるかな、と暗闇を見据えていたこともあった。

 しかし、このままではいけない。なんとか乗りきるんだ、と叱咤する声も聞こえていた。いつしか、その声が胸の中で反響するほど大きくなっていた。

 同時に、丼勘定だった経営姿勢が、従業員の健康管理にさえずさんだった原因だと反省もした。レストランも企業としての基礎を正しく整えなくては、いつまでたっても、社会からは立派な組織とは認められない。

 「なのに、今まで自分は経営の概念をつきつめて考えることもなく店をやっていた」

 平松さんは発憤した。

 「阿部の弔い合戦をやろう。あいつが夢にみていた店を、阿倍の仲間たち全員に持たせてやろう」

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