仕事で島根県の隠岐の島に行った。
前泊だったので島をくまなくジョギングしながら観察できた。島は風が強く、「風」という名の風除け待合まである。常時風の強いところなのだろう。ジョギングするといっても、自然豊かな土地だからといって遊歩道があるわけでもなく、車を避けながら車道を走った。
走りながらなかなか人に出会わないことに気づいた。車道沿いを走っているせいだと思い、生活道を走ることにした。古い家屋が港に面して立ち並ぶエリアを走っていると時折、犬の鳴き声は聞こえてくる。
30分くらい走るとようやく人に出会った。高齢者だった。結局、ホテルまで1時間のジョギングで出会ったのはお年寄り2人ほどだった。スーパーを覗くとそこには人がいてホッとした。私はシャンプーや化粧水を買おうと思った。都会のような品揃えの充実はもちろんなく、たかだかシャンプーでもほしいものが手に入らないことに、日ごろの満たされた便利さに気づかされる。
通りにはいくつかの店があったが、まだ時間が早いのか閉じたのか、開店はしていない。喫茶店がポツリと開いていたが覗くと客はいなかった。ホテルのレストランでは客は私一人だった。地方のホテルを利用していると経験するが、私一人がレストランをひとり占めすることは少なくなかった。隠岐の島での料理は海の恵みで絶品だった。仕事で接した島の人たちもまた素朴ないい人たちばかりだった。

この連載コラムが単行本になりました。『女の敵』(遙 洋子著、日経BP社、1200円 (税抜き)
翌日、東京の六本木に行った。
六本木ヒルズの51階にある会員制クラブでの食事会に招かれた。夕方の六本木通りを歩くと、前後に人がひしめき合い、自分の歩幅では歩けない。歩くというより列に並ぶ感覚で前に押し流されていくのだ。歩道はぎっしり人で埋まり、追い抜くスペースもなかった。
ヒルズでのクラブの入り口は別にあり、そこから既に特権意識でエレベーターに乗るのだ。51階に着くと、薄暗い照明の下で豪奢な家具が並び、その奥にはディズニーランドの花火まで見える広大な夜景が待ち受ける。そこの個室で夜景を独り占めしながら私たちは著名な高級シャンパンを抜き、1匹1万円はする上海蟹を食べた。
その後、広間のソファーに移動して体を沈めるようにコーヒーを飲んだ。その広間には大勢の若者たちが語らい、高額な入会金や会費を支払えそうな年配者はその日はいなかった。日本の勝ち組たちが贅を尽くして一夜をエンジョイしていた。
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