「伊東 乾の「常識の源流探訪」」

伊東 乾の「常識の源流探訪」

2008年1月15日(火)

セックスの快感は脳を麻痺させる

脳測定から見た性的ネット濫用の本質(CSR解体新書24)

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 突然ですが、ヒトが性的快感の絶頂にある時、脳の内部状態はどのようになっていると思われますか?

 正月早々、いったい何の話と思われるかもしれません。実はそういう脳科学的な測定を行ってみたのです(2ページ目の測定結果をご参照ください)。今回は「アサヒ芸能」誌(徳間書店、1月15日発売)袋とじグラビアとのタイアップで記事を企画してみました。

学生の風俗サイト閲覧

 前回の、大学でのネットワークリテラシー教育の文脈から話を始めたいと思います。

 新入学生に「情報公開ガイドライン」について講義する際、必ず取り上げるケースがあります。「プリンターの利用」に関する部分で、もし端末からのプリンター出力で何か事故があった場合、必ずセンターのスタッフに報告連絡相談すること、と話してから、かつて実際にあった例として、以下の話を紹介します。

 ある日のこと、東京大学教養学部に在学するX君は、大学のネットワーク端末上で海外のエロサイトを閲覧していました。秀才もヒトの子ですから、いろいろなことに興味があります。

 それはまあ人間として避け難いことですし、人類という種が滅亡しないためにも、健康な欲望はあってしかるべきものでしょう。ただ大学のマシンを占有して、海外のサーバー上にあるヌード画像を見ているのは、あまり感心した話ではありません。

 実は大学のコンピューターの全アクセスは、端末だけではなく中央の管理者側に記録が残っています。誰が何年何月何日何時何分にどのようなサイトを閲覧したかの情報は、すべて記録されている。

「だから賢明なる諸君は、大学での情報機器の利用ガイドラインから外れる利用、つまり教育・研究目的から外れたネット利用はしないようにしてくださいね」と、ここでも強調しますが、この話のポイントは逸脱アクセスではなくプリンター利用の方にあります。

故障プリンターから大量のエロ写真が

 さて、多分ここまで読まれて、多くの読者はお察しくださったと思います。しかり、X君はネット上で、海外のエロサイトで発見した、お気に入りのヌード画像を、大学のプリンターで印刷したくなってしまったのです。

 プリントアウトしてどうするのかは知りませんが、ともかく大変興味があったようで、またかなり興奮していたのか、やたらにたくさんプリントアウトを試みたらしい。

 ところが、短時間に出力ジョブをたくさん指定して、それがシステム上で詰まってしまったようで、プリンターが故障して動かなくなってしまったのです。X君はさぞ困ったことでしょう。

 何かよからぬことをコソコソやっている時に限って、機械が壊れたりします。この日のX君もそうでした。

 でもX君が、もう少しネットワークのハードやソフトに知識や経験、そして何よりも「社会的な責任感」や倫理観を持っていたら、違う行動を取っていたかもしれません。

 現実には、この日X君は出力ができないと分かった時点で「まあいいや、どうせこんなの分からないだろうから」と、すべてをほったらかして帰ってしまったのですね…。

 例の「匿名性幻想」というやつです。これがいけなかった。

 さて、大学の情報教育棟に数台しかないプリンターの1台が壊れていれば、ほかの学生が職員に通報するのが普通です。実際、大学では機器の故障を発見した時は、速やかにスタッフに連絡することを求めています。

 当然、他の学生からクレームがあったので、職員がプリンターを正常動作させてみたところ、印刷ジョブとして既に端末からデータが送られていたため、「その手の画像」が何枚も何枚も(私は現物を見ていないのですが)、三十数枚だか、出力されてきたそうです。発見した職員や学生の唖然とする顔が目に浮かぶようです。

匿名性幻想で自滅する

 ただちにユーザー記録を調べ、X君に呼び出しがかかりました。多分、X君はイヤな予感がしたことでしょう。しかし、単位や学籍もかかっているので、出てゆかぬわけにはいきません。

 センターに出頭すると担当の教官から、「これに見覚えはありますか?」と、何やら写真のようなものを見せられる。

 教官の机の上にはプリンターから排出された画像類が山積みになっていました。悪い予感は当たり、観念したX君は、自分のしたことをすべて白状したそうです。それは記録に残っている通りだったので、この時点での担当者教官の心証は悪くなかったといいます。

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著者プロフィール

伊東 乾(いとう・けん)

伊東 乾

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など


このコラムについて

伊東 乾の「常識の源流探訪」

私たちが常識として受け入れていること。その常識はなぜ生まれたのか、生まれる必然があったのかを、ほとんどの人は考えたことがないに違いない。しかし、そのルーツには意外な真実が隠れていることが多い。著名な音楽家として、また東京大学の准教授として世界中に知己の多い伊東乾氏が、その人脈によって得られた価値ある情報を基に、常識の源流を解き明かす。

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