医療の世界では、女性医師の比率が近年増加している。女性進出けっこうなことじゃないかと思われる諸氏は早計だ。
女医の増加は決してバリバリ働く女性の増加を意味しない。いつ戦線離脱するか戦々恐々とする現場と、仕事と家庭の両立にあえぐ女医の現実と、家庭を持つ女医への優遇措置に対し、他の医師からの反発も予測されよう。
性別を問わない純然たる競争下での女性の台頭とその後の現実は、今の社会の目指す男女共同参画の未来を占う意味で興味深い。
女性医師の労働環境を改善するための、あるシンポジウムに参加した。客席は圧倒的に女性の医療関係者。そして、舞台には医学会や病院の上層部の男性たちが居並ぶ。女医代表の発言者の要求項目に私は耳を澄ました。
「深夜、患者の急変で、寝ている子供を連れて病院に駆けつける女医がいる現実がある。主治医を複数にする制度を作ってほしい。あくまで正規雇用で労働時間を短縮してほしい。カンファレンス(会議)を夕方ではなく早い時間にしてほしい」というものだった。
上層部の男性医師が「カンファレンスを早くするのは無理」とこともなげに答えた。
女性側の要求と、病院側の姿勢に、私は固い壁を感じた。もちろん、それまで病院側も女性医師たちに対してまったく手を差し伸べていないわけではない。保育所を増やしたり、育児期間は比較的緊急度が少ない部署へ配置したりの配慮はある。だが女医の実感ではそれだけではまだまだ不完全なのだということがその要求から伺えた。
私は当然、女性の労働者を応援する側の立場だ。だがその私が女医の要求を聞いて、「はて?」と思った。
まず、子供を連れて病院に行かねばならない、ということが私には腑に落ちない。夫はどうしているのか。寝てるのか。育児は妻だけがしているのか。
複数主治医制は患者側にとってはいかがなものか。仮に主治医が3人いたとして、それはもはや“主治医”とはいわないのではないか。最も優先すべき患者が、働く女性の都合優先で後回しにされることにならないか。
もし、短時間労働、深夜勤務なし、そして賃金は他の正規雇用と一緒、となると、他の医師は黙っているだろうか。最も恐ろしいのは、結婚した女性を優遇することにより、その埋め合わせで独身女性医師はますます過重労働になり、ますます結婚が遠のき、女々格差が固定されないかということだ。 つまり、女を踏み台にする女という構図だ。
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