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勧善懲悪の思考停止に陥るな

時津風部屋に見る「局所最適・全体崩壊」3

  • 伊東 乾

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2008年3月4日(火)

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 時津風部屋の力士急死事件で、先週から今週にかけて注目すべき動きが発生してしまいました。まず2月29日、逮捕された前時津風親方と3力士が「傷害致死罪」で起訴されました。

 これを受けて日本相撲協会は3月1日、時津風部屋所属の3力士への処分を検討する臨時理事会を6日に大阪市内で開くことを決めました。協会の規則には解雇、番付降格、減給、出場停止などがあり、3力士は解雇される可能性が高いと、報道は伝えています。

 北の湖理事長(元横綱)は、当初は刑事裁判の推移を見守って、判決が出るまでは処分を保留する意向だったのが「起訴されたことで事の重大さを再認識」「今は事態をよく見極める必要がある」と理事会の開催を示唆したというのです。問題はこの北の湖理事長と理事会の姿勢にあります。

 というのもほんの数日前、25日の段階では、逮捕された幕下の明義豊、序二段の怒濤、時王丸の3力士は揃って、番付表にしこ名が載せられていたのです。日本相撲協会は3人に処分を下しておらず、引退もしていないので、番付表に当然名前は残ります。

 3力士とも昨年九州場所から全休が続いている状態でしたが、日本相撲協会は初場所後の番付編成会議で、警察の捜査に協力していることが休場の理由の1つである点を考慮して、3力士の春場所の番付を特例で初場所と同じ地位に据え置くことを決めたばかりでした。

それが「起訴」でいきなり「解雇」というのは、どういうことなのでしょう?

「起訴―即―罪人扱い」は冤罪と変わらない

 刑事被告人として「起訴」された段階では、裁判所はいまだ判断を下す以前で、被告人は有罪とも無罪とも決まっていません。もし裁判所で「無罪」となったら、この「解雇」はどういうことになるのでしょうか? サイパンでの三浦和義氏の逮捕が報ぜられ、最高裁に至るまで日本の裁判所は判決が甘い、などという記事も出ていますが、有罪は有罪、無罪は無罪、罪が確定するまでは未決で、犯罪者と決まったわけではありません。警察当局の見込み捜査と拷問まがいの自白強要で無理やり調書が作られ、その誤った「犯人像」がマスコミに上る例は枚挙にいとまがありません。著名な例では「松本サリン事件」の被害者である河野義行さんは、当初は犯人だと「自白」させられて、顔写真入りの報道被害にも遭っています。

 今回のケースでは、実際に3力士も暴行を働いているのですから、上のような例とは一緒にできません。しかし、逮捕されて世間に名前が出てしまった3人について、起訴されたから、として解雇を言い渡すとしていますが、この事件で書類送検されている力士はまだほかにもいます。もし彼らも一緒に「解雇」などしてしまったら時津風部屋は崩壊してしまいます。「部屋」崩壊とか「年寄株」の名跡そのものに傷がついたりしたら、影響は相撲界全体に及んでしまうでしょう。どこかで線引きをしなければならないと考えるのは分かりますが、それが「起訴」で「解雇」は、明らかにお手つき、ミスだと指摘せざるを得ません。

というのも「起訴―即―罪人扱い―解雇」「不起訴―即―お茶を濁して不問に付す」というのであれば、相撲協会のやっていることは冤罪作りと全く変わらなくなってしまうからです。

協会は共に被告席側に立つべきではないか

 書類送検された力士の名は報道には載っていませんが、時津風部屋の力士は限られた人数ですから、すぐに分かってしまいます。もし相撲協会の姿勢が、起訴なら解雇、不起訴で報道に名前が広く出ていなければ、番付にしこ名が載っていても目立たないから、嵐が過ぎ去るのを待とう、といった姿勢であるなら、まさにトカゲの尻尾切りと言うしかありません。

 当初、逮捕後も番付に力士の名が残るという報道を見て、相撲協会には珍しく筋道を通すのかな、と感心して見ていたのですが、とんでもありませんでした。相撲協会が本当に反省して、体質を改めてゆくためには、起訴された力士たちの少なくとも一審判決が下され、何らかの罪名が確定するまで、協会の一員が被告人席に立たされているという状況を共に耐え忍び、相撲協会自身が被告人側にいるつもりで、世論の批判を受け続ける必要があるでしょう。北の湖理事長が「起訴という事態を深刻に受け止める」などと安易に発言すれば、「相撲協会の成員のまま刑事被告人になるという状況は深刻だから、一刻も早く解雇して、協会側は身奇麗にしておくべき」という姿勢をアピールしているとも見えかねません。

コメント28件コメント/レビュー

(続き)●法務省の「分かりやすい」は,法令やその表記/用語,審理の場での事件の再現などに関する分かりやすさであって,伊東さんの言われる「勧善懲悪」的構図の分かりやすさとは別のものだと思います。伊東さんは裁判員制度のPR映画(『評議』『裁判員』)をご覧になったことがあるでしょうか? あそこに出てくる事件は,いずれも単純な二元的善悪判断では裁けないものです。そこから考えても,むしろ法務省や裁判所は,現実の裁判は(マスメディアが描くような)単純な勧善懲悪の構図ではないという事を,国民と共有したいと考えているのではないか,とさえ私は思っています。●ここにオウム・麻原裁判の例を挙げることは適切ではないと思います。麻原の死刑の確定は「根本的解決」ではないと私も思いますが,では何がどうなればよかったのでしょうか? 一つは,麻原が全ての事実・真実を明らかにすることだったと思いますが,これは裁判ではなく,麻原個人に帰着すべき問題です。●斉藤さんのご遺族の「再発防止」への思いは,なんとしても結実させるべきだと思います。そのためには,建設的な提言(例:稽古場への医師の常駐等)をしていくべきではないでしょうか。(2008/03/05)

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いただいたコメント

(続き)●法務省の「分かりやすい」は,法令やその表記/用語,審理の場での事件の再現などに関する分かりやすさであって,伊東さんの言われる「勧善懲悪」的構図の分かりやすさとは別のものだと思います。伊東さんは裁判員制度のPR映画(『評議』『裁判員』)をご覧になったことがあるでしょうか? あそこに出てくる事件は,いずれも単純な二元的善悪判断では裁けないものです。そこから考えても,むしろ法務省や裁判所は,現実の裁判は(マスメディアが描くような)単純な勧善懲悪の構図ではないという事を,国民と共有したいと考えているのではないか,とさえ私は思っています。●ここにオウム・麻原裁判の例を挙げることは適切ではないと思います。麻原の死刑の確定は「根本的解決」ではないと私も思いますが,では何がどうなればよかったのでしょうか? 一つは,麻原が全ての事実・真実を明らかにすることだったと思いますが,これは裁判ではなく,麻原個人に帰着すべき問題です。●斉藤さんのご遺族の「再発防止」への思いは,なんとしても結実させるべきだと思います。そのためには,建設的な提言(例:稽古場への医師の常駐等)をしていくべきではないでしょうか。(2008/03/05)

あまりにさまざまなことを,一つの記事の中に詰め込みすぎているように思われます。記事の「骨格」は何なのでしょうか?●起訴のタイミングでの解雇については,もちろん伊東さんの書かれているように「冤罪」かもしれないのですが,ではどうすればいいのでしょうか? 判決が確定するまで待つのが正論なのでしょうが,それまでには長い時間がかかります。仮にそこまで待った結果,有罪が確定したから解雇する,という場合,今度はその長い期間(たとえ減給だったとしても)給与を支払っていたとしたら,その妥当性を今度は問われます(相撲協会は準公共的な存在ですから,その点でも国民に対する説明責任があります)。少し短くして,一審判決が出るまで,ということであれば,まだ確定はしていないという意味では起訴のタイミングと変わりません。結局逮捕か起訴のタイミングで,解雇の決断をするのは,現実的な対応としてしかたないではないのでしょうか?(2008/03/05)

少ない法律知識からですが、この事件は障害致死です。理由を問わず、害を加えようとして暴行あるいは指示して、その結果として死亡したのですから。兄弟子の場合、暴行を強要され、低い認知レベルで惰性的に暴行を続けたかも知れません。しかし暴行の強要は拒否すべきであり、低い認知レベルで犯した罪ならば冷静になった時に反省する必要があります。それをしなかった彼らに、このことを持って罪を減じようとは思いません。冷静に傷害致死を行う人が多数とは思えませんから。元親方の場合、水を掛ける、湯船に浸けるという行為が救命処置(だと思っていた)かも知れませんが、それは犯罪行為を知られたくないという範囲での行為で、自分に犯罪性がなければ、もっと早く救急車を呼んでいたでしょう。救急医療を正しく教育しておくことが再発防止策のように書かれていますが、問題はその処置が必要になる程の状況を作らないことです。犯罪行為にもかかわらず、それを普段の行為の延長で行ってしまうこと、それを目撃者が多数いても隠蔽できること、それこそが問題ではないでしょうか?(2008/03/05)

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