独創的なデザインで世界的に注目されているWebデザイナーの中村勇吾さんは、いまの仕事に必要なスキルを独学で身につけた。中村さんのあり方がすごく批評的だと思うのは、東大の工学部を出て、普通の意味で言うとエリート教育を受けたにもかかわらず、それとはまたっく無関係に勝手に独学してWebデザインをされたことだ。
ある意味では東大の工学部で受けた教育よりも、独学で身に着けたことの方が、今の中村さんを輝かせている。中村さんは、組織から面白いものが出てこない、個人の脳の中でコラボレーションが起こって生まれるものこそ面白いという。
インターネットで中村さんが趣味で作ったサイトが評判になったことでも分かるように、インターネットは「拡大鏡」ななのだと思う。われわれは、個人の能力を発揮するということについて、顕微鏡とか望遠鏡とかに相当するものを手に入れている。そのことに気づかないと、だめなんだ。
僕はいま、「ネットアスリート」という概念にすごく興味がある。インターネット上でさまざまな「学び」と「遊び」が加速している。そこで起こっていることは、従来の組織の中で起きている段取りを取ったり、合意を形成したりといったこととはまったく違う、大変な高速で動いている世界である。中村さんは、そこでのアスリートだなと思う。
そこでやっていることは、ちょうど漫画家の浦沢直樹さんがネームを書く時に、「半眼の境地」に行って、そこで苦しいのだけれど、非常にスピード感があるかたちでネームを思いつく。それと同じようなことが中村さんの脳の中で起こっている。
中村さんは、自身で、コンピューター・プログラムの世界でも、デザインの世界でも80点くらいだとおっしゃっていた。脳の立場で言えば、8割と8割の掛け算の方がすごいことができるというのが、これもまた批評的だと感じた。中村さんはその気になればどちらも10割以上いける能力を持っていると思う。それをあえて、そうしないで、止めておいて、8割の掛け算によって誰もできないことをする。これは仕事の仕方として、時代の生き方として、非常に独創的なものがある。
プログラミングをしている時と、感性を働かせている時では、脳のリソースが違うはずで、普通は両方を同時にするというのはできない。中村さんの脳の中でも、両方を司る機能が同時に立ち上がっているということは無いと思う。両者を非常に高速で行ったり来たりすることによって、タイムシェアリングのようなことになっていて、その結果、掛け算としてAでもなくBでもないCという第三項が立ち上がっているだろう。
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