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「母親の後ろ姿を見て、自分も頑張らなくちゃと思った」

  • 双里 大介

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2008年4月16日(水)

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 学生たちの声を拾い集めてみようと思ったのは、昨年8月のことだ。ちょうど大学3年生が就職活動を始める、そんな時期だった。

 きっかけは、ある大学の就職課の先生に取材した時のことだった。アドバイザーとして何百人もの学生と接している先生はいった。「今の学生たちは、情報の塩漬けになっている」「なかなか内定が決まっていかない」「みんなが迷路に迷い込んだようになっている」……。

 意外な答えだった。今は「売り手市場」であり、求人倍率も依然として高い数字を維持している。学生たちが就職で困っているとは、まったく思っていなかった。

 2009年度の大卒予定者は55万9000人、短大卒業予定者9万2000人(文部科学省「学校基本調査」)。今まさに彼らは「シュウカツ」の真っ直中にいる。書店には、就職活動に関する攻略本やマニュアルがあふれている。テレビや雑誌は、現在の就職活動事情を盛んに報道する。

 そんな表面的な情報ばかりを並べてみて「就職は安泰なのだろう」だと思い込んでいた。

 学生たちの肉声が聞きたいと思った。どのような思いを抱え、どんな叫び声を心の中に閉じこめているのか。そのつぶやきを聞かない限り、就職活動の本当の姿は見えてこない。

 彼らのつぶやきは、偏っているかもしれない。若者ならではの思い込みや、わがままな面もある。でも、それでいいと思った。偏り、思い込み、わがままなのには、何らかの理由がある。そして、そうならざるを得ない土壌を作ってきたのは、私たち大人だ。

 今、就職活動に何が起こっているのか。学生たちは何を見て、何に迷い、何に悩んでいるのか。何を失い、何を手にして社会への1歩を踏み出していくのか。

 何人かの学生とメールの交換を始めた。地方の中堅大学に通う、ごく一般的な学生たちばかりだ。

 就職とは、生活のためか、それとも自己実現のためか。会社に入るために血眼になる必要があるのか。自分さがしは善か悪か。学歴とは何か。夢や希望は、本当に誰もが自由に抱くことができるのか。建前と本音はどこにあるのか。会社とは何だ。家族とは何だ。働くとは何だろう。

 学生のつぶやきに触れながら、考えていきたい。

*    *    *

 この4月、大学4年生になった田嶋萌さん(仮名)さんは、昨年の秋から就職活動をスタートさせている。これまでにも何通かメールのやりとりをした。普段の彼女は決して弱音を吐かなかった。「中途半端に終わりたくない」「やり遂げたい」と、口ぐせのように話していた。

 大学へ入学した後、田嶋さんは、医療事務関連の資格取得にチャレンジした。将来のために、何か資格を取っておきたいと思ったからだ。最初は独学で勉強を始めた。途中、独学では限界があると感じて、対策講座に通って勉強を続けた。

 資格の取得に向けて勉強をしているとき、医薬品の世界に興味を抱いた。「人を救うことができる仕事に就いてみたい」。やってみたいと思える仕事に、ずっと続けられそうな仕事に出会えた気がした。

 田嶋さんは、一生仕事を続けていきたいと思っている。

 母親は、50歳を過ぎた今も働き続けている。記憶にある母親は、いつも何かしらの仕事をしていた。5年前には、突然「ホームヘルパーになる」と言いだし、資格を取るための勉強をはじめた。今は、介護福祉士になる勉強をしている。

 今年のお正月も母親は働いていた。家計のために、という理由が一番大きいとは思う。でも、それだけじゃない気もしている。お母さんは、どうしてそんなに働くの? 仕事ってそんなに楽しいものなの? 何度も聞いてみようと思ったけれど、田嶋さんは実際に聞いたことは1度もない。

 ただ、そんな母親の後ろ姿を見て、自分も頑張らなくちゃと思った。シュウカツ、頑張ろうと思った。母は私を、そしていろいろな人を、仕事を通して支え続けている。自分も誰かを支え、助けることのできる仕事がしてみたい。

 資格を活かすのであれば、病院の事務へ就職する選択肢もある。でも、せっかく興味を持てる仕事を見つけたのだから、医薬品に関わる仕事に就くことを目指して就職活動をしていこうと決めた。

 就職活動は、大学3年生の秋から就職活動を始めた。大学主催の就活セミナーにも真面目に足を運んだ。先輩から勧められた就活本も買い、参考にできるところは参考にした。努力は報われると信じて、頑張れば思いは届くと信じて。

 1枚の履歴書を書くのに、いつも3時間以上は掛かった。丁寧に、丁寧に書いた。平日も休日も時間を惜しまなかった。一生けんめいになれる仕事が見つけたいから。結婚しても、子どもが生まれても、ずっと働いていたいから。

 そのためなら、就職活動に1年や1年半の時間を捧げることは、少しも惜しくない。
 多少の移動時間が掛かっても、少しでも金銭的な負担を減らしたい。各地で開かれる会社説明会や就職フェアには、「青春18きっぷ」を買って足を運んだ。新幹線で行けば1時間で行ける場所へ、何度も電車を乗り継いで何時間も掛けて向かった。

 きっぷに押されるスタンプは、すぐに一杯になる。お金がどんどん飛んでいく。チケットショップで半分だけ使用してある青春18きっぷを買ったこともあった。

 着慣れないスーツを着て、駅から駅へと旅してまわったけれど、終着駅はまだ見えてこない。20社以上にエントリーシートを送り、会社説明会に出向き、面接を受けた。でも、すべての企業に落とされた。

 田嶋さんから新しいメールが届いた。

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