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【プロローグ】「いじめに負けない子供を育てる」

2008年7月2日(水)

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 いじめ自殺が相次ぐ昨今。いじめに回らない、いじめに負けない強い子供にしたい。そう考えた地上げ屋が、2年にわたって子供に続けている道徳教育の記録である。
 その中身は、心の強さや物事の道理、社会との関わりなど。心の教育にとどまらず、家庭や学校が教えてくれない人間社会を生き抜くための処世術という側面も持つ。
 この地上げ屋自身、カネと欲望が渦巻く不動産業界、特に立ち退き交渉という札束が飛び交う世界で人の本質を見続けてきた。そんな悪漢だからこそ話せる道徳論。

「価値観とは」

 暖かい日差しに覆われた5月の土曜日。ガラス窓から差し込む陽光を背に、2人の子供がノートに顔を近づけていた。小学校6年生の姉サクラと4年生のリュウジ。その横には、髪を短く刈り揃えた色黒の男がいた。2人に何やら語りかけ、メモを取らせている。2年前から続く、土曜日のいつもの光景である。

****

父親:よっしゃ、サクラ、リュウジ、勉強会を始めるで。今日のテーマは「価値観」。「価」「値」「観」。漢字で書いたらこうや。ほんなら聞くけど、価値観って何?

サクラ:聞いたことある。

父:例えば、リュウジはスパイダーマンのオモチャを買うやん。リュウジは5000円を出してもスパイダーマンのゲームが欲しい。でも、サクラはあんなもん買おうとは思わんやろ。

勉強会の様子

2年前から、親子で勉強会を開いている。

サクラ:うん。

父:じゃあ、サクラが欲しい物は何やの。

サクラ:CD。

父:リュウジはそんなもん、興味ないやろ。

リュウジ:ない。

父:リュウジにとっては大事な物であっても、サクラには何の興味もない。人それぞれ、値打ちを感じる物が違う。これが価値観。価値観の違いというヤツや。そしたら、自分がエエと思うものを人に押しつけるのはどうや。リュウジが、「スパイダーマンがエエからお前も買え」と押しつけたらどうや。

サクラ:嫌や。

父:そうやろ。人それぞれ価値観は違う。自分の価値観をあまり人に押しつけない方がエエ。じゃあ、もう1つ聞くけど、「オレは人をどつくのが趣味や。人をどつくことに価値あると思うとんねん。オレの価値観やから放っておいて」。これ、リュウジがスパイダーマンを好きなのと同じ価値観かな。

サクラ:違う。

父:何が違うの?

サクラ:スパイダーマンやCDは誰にも害を与えないけど、殴るのは人を傷つける。

父:そう、大正解! 価値観はお互いに尊重しなければダメ。でも、その価値観は人に迷惑をかけない常識的なことでないとアカン。なら、ここに出てきた「常識的」ってどういうこと。どういうことが常識的なん?

リュウジ:当たり前のこと。

父:当たり前」ってどういうこと? お父ちゃんは毎晩、酒を飲む。これはオレにしたら当たり前のことや。でも、お前らは酒を飲むお父ちゃんは嫌いやろ。じゃあ、何でお父ちゃんが酒を飲むとアカンと思うの?

リュウジ:酔っぱらう。

父:酔っぱらって嫌なことを言ったり、すぐ怒ったりして、お前らに迷惑をかけているからやろ。もしお父ちゃんがいくら酒を飲んでも酔わんと、何もしなかったら嫌なことと違う。常識的というのは、「人に迷惑をかけない」ということと違うか。

サクラリュウジ:うなずく。

父:よっしゃ、じゃあ、ノートに書けよ。

「人それぞれ、自分の価値観を持っています。自分がよいと思うことでも、そう思わない人もいます」
「人それぞれ、価値観が違うので、あまり自分の価値観を押しつけない方がいいです」
「価値観はお互いにそれぞれ尊重しなければいけませんが、その価値観は人に迷惑をかけない常識的なことでなければいけません」
「常識的なこととは人に迷惑をかけないことです。自分は人に迷惑をかけないように、いつも正しい考えで、正しい行動をするようにします」

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「【プロローグ】「いじめに負けない子供を育てる」」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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