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いい米作ってたくさん売りたい。ただそれだけ

雑草との格闘、家族の反対…。それでも米を作る男3人の挑戦

  • 宮嶋 康彦

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2008年7月3日(木)

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 どんなに世情に背かれても、米を作らないわけにはいかない。自分が生まれた土地への敬愛であり、やがて帰る土への、独自の信仰です、と、米作り2年生、元県立高校校長の高橋直栄さん(68歳)が語る。  

 高橋さんは、新潟県東頸城(くびき)郡松之山町(現十日町市)という、典型的な山間地の農村に生まれ育った。豊凶に泣き笑いする農民の姿を血肉に刻んできた人物である。  

 食い詰めて、一家が離散していった後の寂寥や、老いた老人が「おらイラズだで」と自死していった悲劇を目の当たりにしてきた。

 ちかごろ、一般名詞として定着した感がある「限界集落」という言葉。この概念作りをしたのは、大野晃氏(長野大学教授)である。高知大学に籍を置いていた若い日、過疎化していく松之山の農家を訪ね歩いている。そのときの調査研究に同行したのが高橋さんだった。大野氏は高橋さんに「強い言葉だが、そう表現せざるを得ない情況」と語っていたらしい。30年ほど前のできごとだが、2人は当時から、農村に対して共通の問題意識を持っていた。

区画整理や農地転用、耕作放棄…。変貌する農村風景に胸を痛めてきた

 高橋さんは、家郷の松之山にはひと方ならぬ郷土愛を抱いている。子どもたちは自立して都会に住み、今は妻と2人、終の棲家と決めた天水島(あまみずしま)で静かな日々を送りながら、限界集落の明け暮れを見つめている。

 生まれた場所、育まれた土地、嫁をもらい家庭を結び、吾が子を育てたところ…そんな家郷が、昭和30年代後半から、急速に過疎化していった、と話す。経済成長に伴って、都会へ出ていく先輩や同級生を数多く見送った。食糧管理法、減反政策、農協の呪縛、土建業を勃発させ、肥やすばかりの農政に、変化と歪みを強いられ、翻弄されてきた農村・農家を、同じ目線で見てきた。

 同時に高橋さんは、区画整理や農地転用、耕作放棄…時代ともに見慣れた農村風景が変貌していく様に胸を痛めてきた。1万人を割り込むことがなかった人口も、東京オリンピックが開催された昭和39年には、およそ9800人に減少し、現在は2800人ほどになっている。

たった1人でも、絶望の淵に立っていても、何か行動しなければ

 「失われていく農的風景を、どうやったら止めることができるか、そのことばかりを考えてきましたね、歯止めは米作りしかないんです」

 そんな折に戸邊秀治さんが登場した。

 「戸邊さんが、松之山にやってこられて、人力で米作りを始めたことを知り、興味を持ちましたね。そして知り合ってみれば、彼のやり方の中には、今後の農業を考える上で、いくつかの大切な方法が含まれていると感じたんです。田を耕さないとか、年中、冠水させておくことも1つです。ところが、ここは典型的な田舎ですから、外からやってきた人には閉鎖的なんですね、口さがない人がありもしない噂をする。下手をしたらそんな人たちに潰されてしまいますからね。孤軍奮闘する戸邊さんの力になりたいと思いましてね、一番いいのは弟子入りすることだったんです」

 それで去年から、自分の1反(300坪・約10アール)の田で米作りを始めた。

 「やってみれば、これが生きがいになっていく。大学で勉強した化学が役にも立つ」

 米作り2年目の今年は、10年前から減反政策で仮放擲されていた1反の田んぼを借り受け、復活させることにした。重機を入れなくては、どうにもならないほど荒れていたが、なんとか田植えができるまでに復元。あとは、戸邊家の面々と近所に住む同級生の婦人、初老の女性の助力を得て、無事、田植えを済ませることができた。

 田植えの後の高橋さんの表情は、晴れやかに上気していた。

 戸邊さんが言う。

 「なおえさんの田んぼ、草取りでたいへんです。1日2時間ばかり作業をする日が5日ばかり続いています。きょうも石黒さんと朝から作業をしてきたところです」

 除草剤は使用しないため、やたら草が生えてくるらしい。特に無農薬の米作りは、草との格闘を覚悟しなければならない。しかも、戸邊さんの農法は「誰にでも簡単にできる」ことを謳っている。無様な田の姿を他の農家に見られるわけにはいかない。戸邊さんの助力も大仕事になっている。

コメント9件コメント/レビュー

初めて読ませて頂きました。地方再生=日本の良い習慣、生活及び原風景を取り戻す事になると思います。それがまた、結果的にはエコ、省エネの活動につながり、環境負荷も減る事になると思います。個人的には、昨年から無農薬のお米を作り、そのお米からお酒を作る、その過程を素人の我々に体験させてくれる活動に参加しましています。初めての経験でしたが、とても感動的で今年も継続しています。これからもこのコラムを楽しみにしています。(2008/07/07)

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いただいたコメント

初めて読ませて頂きました。地方再生=日本の良い習慣、生活及び原風景を取り戻す事になると思います。それがまた、結果的にはエコ、省エネの活動につながり、環境負荷も減る事になると思います。個人的には、昨年から無農薬のお米を作り、そのお米からお酒を作る、その過程を素人の我々に体験させてくれる活動に参加しましています。初めての経験でしたが、とても感動的で今年も継続しています。これからもこのコラムを楽しみにしています。(2008/07/07)

以前の記事と同様に、読んでいるこちらも気力が復活してくるようなよい記事です。ただ、だからこそ「繁さんは、もう1つ、筆者にもうれしいことを報告してくれた。このコラムを見た人たちから、米の注文が相継いで、「もう秋の収穫が終わるまで売る米がないよ」というのである。」という部分に、一点の危惧を覚えた。従前の方法との比較がなされているわけではないのではっきりとは言えないが、現状を厳しく見れば、消費側の必要な量を担保出来ている生産量であるとは言えないようだ。しかし、生産側としては満足できる出荷量であるとすると、ここにミスマッチが生じて、せっかく構築した生産の方法を壊すことにならないか。もしくは、消費を満たすためには生産の方法へのこだわりを一部割り切っていくような必要があるのか。将来、こうした農法が全国的に広まっていくためには、見逃せない観点ではないかと考える。今後の活動から、よい回答が出てくることを期待したい。(2008/07/04)

国と農協と米の価格、値段中心で物事を考えているみたいだけど、国土は確実に荒廃し、農家は後継ぎの問題や、肥料、農業機器の手当て等手が回らない状況が続いています。これでは日本の米農業が完全に失われてしまいます。 国もいい加減原反政策の見直しをしましょう。(2008/07/04)

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