• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

血なまぐさい台湾に「商機」あり--直吉、運命の出会いへ船出

丁稚が創った世界企業~金子直吉伝・4

  • 山岡 淳一郎

バックナンバー

2008年7月22日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 神戸の港に日清戦争で連合艦隊の旗艦を務めた「松島」が入った。

 4200トンの巡洋艦クラスの船体に口径32センチの巨砲を搭載している。清国の怪物じみた巨艦を撃退するには砲は大きいに限ると、海軍が精いっぱい背伸びをしてフランスの造船所に建造させた戦艦だ。小さな船体は巨砲をもてあまし、黄海会戦で大破の憂き目をみたのだが、日清戦勝の象徴には違いない。その雄姿をひと目みようと見物人がどっと押しかけた。港は黒山の人だかり、松島が悠然と停泊している。

 その群衆のなかに、樟脳(※しょうのう)の空売り失敗(前々回参照)から這い上がろうとする金子直吉の姿もあった。

 金子は、人垣を押し分けるようにして旗艦に近づいた。同郷の先輩の顔を見つけたのだ。島村速雄、のちに海軍大将となる人物が、分隊長として船に乗り込んでいた。島村は、軍人には珍しく功名心が薄く、他人に手柄を譲る度量の広さを持っていた。親しみやすく、気軽に声をかけられそうな雰囲気をたたえている。

 金子は、島村に問いかけた。
「この軍艦は、これからどこへ行くのです」
「台湾が日本の領土になったから、受け取りに行くのだ」と島村は応えた。

 日本は清国との講和条約に調印し、大連などの都市がある「遼東半島(中国遼寧省南部)」、「台湾・澎湖諸島」を新領土として割譲され、「2億両(約3億円)」の賠償金を得た。ところが、大陸の権益をかすめとられるのを嫌ったロシア・ドイツ・フランスは、武力を背景に日本に遼東半島を中国に還すよう迫った。いわゆる「三国干渉」である。外相の陸奥宗光はイギリス、アメリカ、イタリアを味方につけて三国干渉をはねのけようと試みるが、イギリスの拒否で万事休す。日本は三国干渉を受け入れ、遼東半島を中国に還付した。

 軍事的勝利を収めたにもかかわらず、列強の「力の外交」に屈したことで国民は挫折感を味わった。その思いは「臥薪嘗胆」を合言葉にロシアへの報復に転化され、日露戦争へ向う。ひとまず遼東半島は還したけれど、台湾は新領土となった。島村は、その台湾を「受け取りに行く」と言うのだ。

 しかしながら、明治政府は、抵抗する台湾住民の武装解除に手こずっていた。植民地行政の中心機関である「台湾総督府」を設け、薩摩出身の海軍大将、樺山資紀が初代総督で乗り込んだが、抗日運動の炎を鎮められず、民政統治どころではなかった。

 陸軍は、近衛師団に混成旅団、さらに乃木希典率いる第二師団とずるずる増派していた。イラク戦争にのめりこみ、兵力を投入し続ける現代のアメリカと似ている。陸軍は約5万の兵士と軍属・軍夫2万6千、軍馬9500頭を、九州をひと回り小さくした台湾に送り込む。海軍も連合艦隊の大半を動員し、圧倒的な軍事力で人口3百万人の島の平定を進めていた。

 これに対し、大陸に渡らず、台湾を父祖の地として生きる決意をした人びとは、女性や子どもまで戦闘に加わり、悲壮なゲリラ戦で立ち向かった。この抗日戦での台湾住民の犠牲者は1万4千人と推定される。一方、日本軍の戦死者は278名とされるが、マラリアやコレラの伝染病が蔓延し、食糧の欠乏もあって4600人が命を落とした。酷暑の島で病状が悪化して内地に送還された者は2万人以上ともいわれる。

 日清戦争が終わって台湾平定という「もう一つの戦争」が行われていたのである。

※クスノキの樹液から採れる樟脳は、防虫剤として用いられるほか、当時の新素材であるセルロイドの主要原料として大きな需要があり、重要な輸出産品でもあった

 植民地獲得の動乱は、危機であると同時に千載一遇のチャンスでもあった。金子は、軍艦の行き先が「台湾」と聞き、いても立ってもいられなくなった。台湾といえば、中央山塊に巨大なクスノキの原生林が林立している。樟脳の世界シェアの7~8割を占める大産地なのだ。その宝の島に軍艦が行くという。
「先んずれば人を制す」。金子は、台湾のようすを知りたくて身もだえした。

 「ぜひ、この軍艦に乗せて、台湾見物に連れて行ってください」と金子は島村に頼み込んだ。

コメント0

「金ぴか偉人伝」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

プロフェッショナルとして、勝負どころで安易に妥協するなら仕事をする意味がない。

手嶋 龍一 作家・ジャーナリスト