「今日から始める「敗者復活」〜“アンチ天才”のボトムズ流仕事術・2」

2:「おまえはスゴイ!」に潜む罠

組織は「信じつつ疑う」べし

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2008年8月6日(水)

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【前シリーズ 「アンチ天才のボトムズ流仕事術 〜64歳の現場監督に聞け!」はこちらから】

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――前回は、自分が「敗者だ」と思い込んでしまう「負け感」は、他人が用意したルールの中で100点を取ろうとしているから起こる、というお話でした。とはいえ、「勝ち負け」に厳しくなった世の中では、一度負けたらもう這い上がれない。そんな風潮も感じますが……。

担当編集Y 格差や貧困は確かにあります。だけど、だからといって自分が本当に「負けた」のか。勝手に負け感をつのらせて錯覚していたとしたら、あまりにもったいないのではないかと、個人的には思うんですけど。

――でも、年収や仕事の能力、今の自分のポジションとかで比べると、やっぱり自分だけが負けていると思うんです。年収も会社名もポジションも、数値化できたり現存するものだから、錯覚だとは思えないんですよ。

高橋 そこが社会がしかけてくる呪縛なんですよね。呪縛というのは、他人に強制されるよりも、自分で作ってしまっていることの方がずっと多いんです。自分なりの幸福をつかもうと思ったら、自分が作っている呪縛から逃れることが重要で。自分を縛る呪縛は何なのか、その正体を知ることが大事だと思います。

 正体はたぶん意外なところにあって……僕は、褒められることの中に罠があるような気がするんですよ。

写真:大槻 純一

――褒められることの中に罠がある……。

高橋 例えば、100点を取ると、「お前は100点取って偉い」と言われるとしますよね。……その、100点取って褒められることの中に何か罠が潜んでるような気がしません?

――そうですか? 褒められるという成功体験は、心の満足として大事ではないかとも思います。他人に褒められることで、自分が自分を認められるという考え方もあるのでは。罠というのは……どうなんでしょう。

高橋 たとえ負け続けても、競争に参加することが喜びという人ならいいんですけどね。おそらくそうじゃないでしょう。みんな自分が勝てなくて、1番になれなくて、イライラしてるんじゃない?

 だって、本当は80点でも充分合格、70点、60点でも誰も困らないはずなんですよ。 それを必死にしのぎを削って、80点なら85点にしたいとか、85点を90点にしたいとか、あと2点取ればあいつを越せるとか……そう考えちゃうのは、誰かが褒めてくれるからなんですよ。

 会社だって、営業成績とか、同じ部署で競わせるようになっていたりするでしょう。それは誰かが作った「100点」の基準をみんなが目指すようにし向けているんですよ。絶対、誰かが誘導したいという思惑があって褒めてるわけですよ。

嬉しいからって、褒められることだけを目指すと

Y 自分を省みても、会社で「よくやった、おまえはスゴイ!」と褒められると、やっぱりそっちに引っ張られるし、努力しちゃいますねえ。

高橋 努力が通じればいいけど、それは他人が作った基準だから、自分の頑張りが必ずしも100%評価されるとは限らない。会社だったら上司が代われば評価も変わっちゃいますよね。

Y ああ、それは劇的に変わることがあります(ため息)。

高橋 上司が替わって評価軸が変わる。そうすると、頑張ってきたのに、自分のせいではないのに、下がった評価と向き合わなきゃいけないわけですよ。

 競争ということにいつも耐えて、落っこちてもまた乗り越えていこうとか、それが自分の快感になる人はいいんです。それはまったくかまわない。ですけど、そうじゃない人はそこに付き合ってるのは大変ですよ。

――褒められるということは「相手からの評価」でもあると。確かに褒める側に悪意がなかったとしても、相手からの評価だけを心の拠り所にしてしまうと、努力が相手に通じなかった時に落ち込みますよね。なるほど。

高橋 世の中には、「褒め殺し」という言葉もあるくらいで、褒めることを武器にしてるやつ「も」いる。武器に例えられるということは、そこには何か、罠があるはずなんですよ。

 間違ってはいけないんですが、人間、成長したいということはいいと思うんです。そのために、褒められること、褒めてあげることはとても大事なんです。

 でも甘味料と同じで、取り過ぎとか、褒められることばっかり望むというのは少しおかしいですよね。1つのことの中に全部いいなんてことないから、そこに甘い罠があると思うんですね。

 たとえば、会社が社員を褒める手段といえばなんでしょう?

Y 人事や、給与ですかね。

高橋良輔監督

高橋良輔(たかはし りょうすけ)

日本を代表するアニメ監督のひとり。1943年1月11日東京生まれ。1964年、株式会社虫プロダクションに入社。主 な作品に「W3(ワンダースリー)」「どろろ」「リボンの騎士」などがある。虫プロダクションを退社後、サンライズ創業初期に「ゼロテスター」(監督/1973)に参加。代表作として「太陽の牙ダグラム」(原作・監督/1981)、「装甲騎兵ボトムズ」(原作・監督/1983)「機甲界ガリアン」(原作・監督/1984)「蒼き流星SPTレイズナー」(原作・監督/1985) 「沈黙の艦隊」(監督/1996)「ガサラキ」(原案・監督/1998)「火の鳥」(監督/2004)「モリゾーとキッコロ」(監督/2004)「FLAG」(原作・総監督/2006)「幕末機関説 いろはにほへと」(原作・総監督/2006)がある

*****

高橋監督自身の「敗者復活戦」を象徴する「装甲騎兵ボトムズ」。その最新オリジナルビデオアニメ「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」(原作・監督)がバンダイビジュアルより発売中。戦いと孤独の中に深く沈む主人公、キリコ・キュービィの若き日と彼を取り巻く壮大な陰謀が描かれる。最終巻(第6巻)は8月22日発売

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「ワタシの夫は理系クン」ほか。



このコラムについて

今日から始める「敗者復活」〜“アンチ天才”のボトムズ流仕事術・2

「この連中はすごい。天才だ。俺にはこの連中と伍して仕事をする才能がない」 。そうそうたる才能の中に置かれ、敗北感に打ちのめされてから17年も燻り続けた男に、訪れた、復活の転機とは? 集団の才能を率いるアニメーションの世界で、今も最前線に立つ高橋良輔監督が、己の「負け感」をテコに立ち上がる術を語る。地頭力も、ライフハックも、塹壕の中で生き延びた実戦論には敵わない! ※連載第1シーズン「アンチ天才のボトムズ流仕事術 〜64歳の現場監督に聞け!」はこちらから

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