「地方再生物語」

大規模農家の豊かさに隠れた開拓者精神と努力

「たった一晩」で数百万円の損害が出る繊細な作物との格闘

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2008年7月31日(木)

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 オホーツク沿岸の町、小清水町の安定した暮らしの風景は、小麦農家、農協、製粉・加工食品会社、役所、それらが有機的に結びついて佳景を形づくっている。

 原野を開拓してきた歴史は重く、それぞれの農家にフロンティアとしての自尊と気骨を植えつけていることは、農家の人たちと会話して実感した。地理的には日本の最果てに違いないが、インターネットの普及によって、暮らしのデザインも洗練され、偏狭な田舎を感じさせない。こうした安定を維持することも、ひとつの地方再生の在り方といえるのかもしれない。

 小清水町という農業国の調和は、一軒一軒の農家にも、それぞれの安定した景色を与えている。

 小清水の旧友、河西定博が紹介してくれた竹本農場の場主、竹本孝彰さん(53)のお宅がそうだった。こしみず農協の組合長が「豊かな君が標準と書かれたら助成を嘆願する立場からは具合わるい」というほど、経済的にはもちろん、1戸の農家といえど、独立した企業であることを自覚し、緻密な計算と経営者がやるべき努力を惜しまない。

徹底した土づくりで生産性を向上させた

 どの農家も同じようなやりかたで、小麦やビート、ジャガイモや大豆を作っている。それなのに、どこで差異が生じるのか。組合長はなぜ、「豊かな君」と語るのか。人よりも頭一つ抜きんでるというのは、いかなる力量あってのことなのか、知りたいと思った。そこに、農業の、めくるめくダイナミズムが潜んでいるだろうし、農業経営の孤独と喜びと不安と怒りが表出しているに違いないのだ。

 竹本さんの農地は55.5ヘクタール。離農していった人の農地を、少しずつ買い足してきた。「いつでもそうでしたが、良い土地を、言い値で買ってきた」という。土地を売る側が提示する値で購入してきたのには理由がある。この土地で踏ん張ってきた農家が、ついには持ち堪えられず、土地を手放すしかなかった同志への、敬愛の念が根底にある。

 「良い土地とは良い土ということです、農家には良い作物が獲れることが一番大事なことですから、少々高く買ったとしても、けっきょく後で得になっています」

 主な作物は、小麦、ビート、澱粉ジャガイモ、大豆。国民が最も必要とするカロリー源を作っている。そのことから、竹本さんには「日本人の食べものを作っている」という自覚と自負があると話す。

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著者プロフィール

宮嶋 康彦
(みやじま やすひこ)

宮嶋 康彦

1951年長崎県佐世保市生まれ。写真家、作家。東京造形大学講師。『紀の漁師 黒潮に鰹を追う』(草思社)、『誰も行かない日本一の風景』(小学館)、『蛍を見に行く』『この桜、見に行かん』(文藝春秋)、『花行脚・66花選』(日本経済新聞社)、『たい焼の魚拓』(JTB)、『脱「風景写真」宣言』(岩波書店)、『写真家の旅―原日本、産土を旅ゆく。』(日経BP社)など著書多数。自身のホームページでは写真と文章を毎日更新。



このコラムについて

地方再生物語

財政難、過疎、高齢化など地方が置かれている状況はどこも同じように厳しい。しかし、苦しい中で、わずかながらも光明を見出している地方がある。都会にいるだけでは地方の本音は聞えてこない。そこに暮らす人の姿、風景、そして風土。実際にその地に足を運んでみれば、全く違う声が聞えてくることもある。地域間格差の本質と、再生に挑む人々の声をルポする。

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