オホーツク沿岸の町、小清水町の安定した暮らしの風景は、小麦農家、農協、製粉・加工食品会社、役所、それらが有機的に結びついて佳景を形づくっている。
原野を開拓してきた歴史は重く、それぞれの農家にフロンティアとしての自尊と気骨を植えつけていることは、農家の人たちと会話して実感した。地理的には日本の最果てに違いないが、インターネットの普及によって、暮らしのデザインも洗練され、偏狭な田舎を感じさせない。こうした安定を維持することも、ひとつの地方再生の在り方といえるのかもしれない。
小清水町という農業国の調和は、一軒一軒の農家にも、それぞれの安定した景色を与えている。
小清水の旧友、河西定博が紹介してくれた竹本農場の場主、竹本孝彰さん(53)のお宅がそうだった。こしみず農協の組合長が「豊かな君が標準と書かれたら助成を嘆願する立場からは具合わるい」というほど、経済的にはもちろん、1戸の農家といえど、独立した企業であることを自覚し、緻密な計算と経営者がやるべき努力を惜しまない。
徹底した土づくりで生産性を向上させた
どの農家も同じようなやりかたで、小麦やビート、ジャガイモや大豆を作っている。それなのに、どこで差異が生じるのか。組合長はなぜ、「豊かな君」と語るのか。人よりも頭一つ抜きんでるというのは、いかなる力量あってのことなのか、知りたいと思った。そこに、農業の、めくるめくダイナミズムが潜んでいるだろうし、農業経営の孤独と喜びと不安と怒りが表出しているに違いないのだ。
竹本さんの農地は55.5ヘクタール。離農していった人の農地を、少しずつ買い足してきた。「いつでもそうでしたが、良い土地を、言い値で買ってきた」という。土地を売る側が提示する値で購入してきたのには理由がある。この土地で踏ん張ってきた農家が、ついには持ち堪えられず、土地を手放すしかなかった同志への、敬愛の念が根底にある。
「良い土地とは良い土ということです、農家には良い作物が獲れることが一番大事なことですから、少々高く買ったとしても、けっきょく後で得になっています」
主な作物は、小麦、ビート、澱粉ジャガイモ、大豆。国民が最も必要とするカロリー源を作っている。そのことから、竹本さんには「日本人の食べものを作っている」という自覚と自負があると話す。
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