ふとした縁で2カ月だけ暴力団組長の秘書になった小川宇満雄。この組長との2カ月を通して、「声が大きい人間が勝つ」という事実や経済界と裏社会のつながり――といった現実社会の一端を垣間見た。不合理なことが相次ぐ世の中。子供たちには不合理を乗り越える強い心を持て、と説く。
「義務と権利」
前回書いた組長秘書の話は賛否両論あったなぁ。あの2カ月で経験したことはすべて事実やし、別に何か弁解する気はあらへんけど、オレは一度もヤクザ組織に身を置いたことはないよ。オレは右翼団体代表の秘書ということで雇われとった。立ち退き交渉の時も一切、その筋に何も頼まずに来た。それは、オレの誇りや。まあ、念のために言うとくわ。
さて、今回の勉強会は「義務と権利」や。よく「権利と義務」と言われるけど、オレの感覚では、義務が先にあって権利がある。自分の義務をきちんと履行するからこそ、権利を主張できると思っているんやが、どうやろうか。だから、「権利と義務」でなしに「義務と権利」というふうに、子供たちには教えたいと思うた。
****
小川:おい! 今日の心の勉強は「義務と権利」や。言葉ぐらいは知っているやろ。
サクラ:うん。
リュウジ:知ってる。
小川:ほな、どういう意味か、言うてみぃ。
サクラ:まあ、権利はゴハンを食べさせてもらうとか。
リュウジ:義務は勉強や。
小川。そやな。お前らの場合、権利っちゅうんは、お父ちゃんにタダでゴハンを食べさせてもらうとか、子供同士のつき合いに困らん程度に小遣いをもらうとか、ゲームを買ってもらうとか、そういうもんがあるわな。そやけど、それを権利と言うんやったら、まず先に義務を果たさなアカンわな。
サクラ:うん?
小川:お前らの義務は、まず親や先生の言うことをしっかり聞いて、ちゃんと勉強することや。自分で働いてカネを稼げるようになるまでは、親の言うことを聞き、人に迷惑をかけず、勉強せなアカン。これが、お前らの立場では正しい行いや。
リュウジ:分かっとるで。
小川:じゃあ、パパの場合は何や。
サクラ:一生懸命、仕事すること。
小川:そうや。お父ちゃんは一生懸命働いて、カネを儲けて、お前らを養わなアカンわな。要は、義務っていうのは、自分の立場でしなければいけないこと。すなわち、正しい行いや。分かったな。
サクラ:うん。
リュウジ:うん。
小川:「うん」とちゃう、「ハイ」やろ。
サクラ:ハイ。
リュウジ:ハイ。
小川:そうや。「義務」や「権利」という言葉はそのうち学校でも習うやろ。そん時は「権利と義務」って覚えると思うけど、実際には、義務を果たしてから権利を主張せなアカンで。お前らが勉強せぇへんかったり、悪いことをして人に迷惑をかけたりすると、小遣いはもらえへんぞ。ゲームも没収やわな。
ほんで、この権利も人に迷惑をかけない常識的な範囲で主張せなアカン。いくら自分に権利があるからと言うても、それで人に迷惑をかけてしまったら本末転倒やわな。分かるやろ。
サクラ:ハイ。
リュウジ:はいっ!
小川:エエ返事や。ほな書けよ。
「人はいろいろと権利を持っています。しかし、その権利をもらうためには、先に義務を果たさなければなりません」
「義務をきちんとしてから権利を主張します」
「その権利も、人に迷惑をかけない常識的な範囲でないといけません」
「すなわち、正しい行いです」
小川:義務をきちんと果たして権利がある。これは、忘れたらアカンで。これまでの立ち退き交渉で、お父ちゃんはいろいろな人に会うてきた。その中には、やるべきことをやらんと主張ばかりしてくる輩が大勢おった。お前らにはそういう人間になってほしくない、と思うから、こんなことを言うんやで。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。












