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若手に決裁権、世界を相手に大勝負

丁稚が創った世界企業~金子直吉伝・10

  • 山岡 淳一郎

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2008年9月8日(月)

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(前回から読む)

 明治が去り、新しい時代、大正の世が訪れた。
 景気は低迷しているが、神戸の鈴木商店には、若々しいエネルギーが満ちていた。

「ジャワ糖、200万ギルダーで、買いや! 横浜正金に為替を組んでもらおう」

(イラスト:茂本ヒデキチ)

 ロンドンから届いた砂糖相場の至急電報を手に神戸高商出のホープ・高畑誠一が、声を張り上げる。ギルダーとはオランダの通貨単位の英語読みだ。オランダ領のジャワは砂糖の大産地だが、貿易上の決済はロンドンで行われていた。ジャワ糖の代金の支払も為替でロンドンの銀行口座を介して行われる。世界の金融、ビジネスの中心はロンドンだった。

 高畑は、乱数表のような「電信暗号(プライベート・コード)」を凝視しながら、買い注文を次々と出した。

 その横で、商館番頭が、店童あがりの社員に「米価は、どや?」と声をかけた。

 「一石、20円を超えました。まだまだ上がりそうです」。ここ一、二年でコメの値は倍以上に高騰している。番頭は、一から仕込んだ社員に命じた。

「よっしゃ、サイゴン米、2万袋、積みとってこい!」
「船は、どないしましょ」
「大連で小麦を揚げたのがあるやろ、あれを回して、下関で荷揚げやな。九州で売ればええよ。関西、京浜は外米がダブついてるよってな」

 「へい」と社員は口答し、注文電報の作成にとりかかった。

決裁権を得て、若い社員が猛然と働く

 鈴木の若衆は、よく働いた。

 学卒者、商館番頭、叩き上げ、それぞれ来し方は違っていても、互いが一騎当千の気概をもって商いに向った。昼食時、鈴木商店では幹部も平社員も食堂に集まって同じ釜の飯を食う。そこがブレインストーミングの場となるのも珍しくはなかった。商売は迅速に、即断即決主義を貫く金子は、若い社員にも大胆に決裁権を与えている。少々の失敗は商いの肥やし、と割り切っていた。

 世界相手の取引に手ごたえをつかんだ若衆は、猛烈に働き、日がくれると、花街「花隈」にくりだした。「宵越しの金はもたない」とばかり、豪快に遊んだ。お茶屋から出勤する者は一人や二人ではなかった。お茶屋をねぐらにする猛者もいた。

 金子が組織の「柱石」とみなす西川文蔵は、そんな暴れ馬の集団のような若い社員たちのまとめ役であった。東京高商を中退して鈴木に入った西川は、そろそろ勤続20年にさしかかろうとしている。金子が「火」なら、西川は「水」であった。天才的な経営感覚で猪突猛進する金子に対し、西川は理非曲直を見極めて策を練るタイプだった。金子は、そんな西川が頼もしくてたまらず、じぶんの長男に「文蔵」と名づけている。西川のような男になってほしい、父親としての願いを息子に託したのだった。

 西川は、総帥の大きな期待を冷静に受けとめる一方で、そろそろ組織の「核」を定めねばならない、と考えていた。若衆のエネルギッシュな働きぶりを眺めながら、いまはこれでいいが、いつまでも三派が入り乱れていては組織の近代化が遅れる、と案じていたのであった。西川は、虫の知らせでもあったのか、次の世代の核を、早く……と、若者たちの働きぶりに視線を投げかける。

 そして、いつもひとりの男の姿に視線は釘づけになる。

初戦でつまづいた鈴木商店のホープ

 「やはり、高畑しかおらんな」と西川は心のなかでつぶやいた。ロンドン、ハンブルグ、ニューヨーク、上海、ボンベイ……世界の拠点から電信暗号で穀物や石炭、綿花などの情報を取り寄せる体制は整ってきた。次は、直接、世界のビジネスの中心地に社員が乗り込んで、大商いを仕掛けねばならない。現地で判断できる人材の養成が急務だった。

 三井物産は、明治の後半から中国、フィリピン、豪州、インド、ハワイに有望な学卒者を派遣して実務を修得させている。三井が強いのは「人材の貯水池」と呼ばれるほど、社員養成に成功しているからだ。商社は、ひとが財産である。

 西川は、神戸高商を首席で卒業し、鳴り物入りで入社した高畑が犯した大失敗を懐かしく思い出した。英語に秀でた高畑は、外国部通信係に配属された。鈴木商店一の気難し屋で英語の使い手であった商館番頭も、卒業式で外国人来賓向けに校長の演説の英語通訳をした高畑の語学力には舌を巻いた。高畑は海外取引を任された。

 ところが、ハンブルグとの取引で、いきなり大失態を演じてしまう。電信暗号が改正されたのを忘れ、五倍の数量差がある古い暗号のまま大量の樟脳を売った。しかも品不足で相場は上げ潮にのっており、会社に大損害をもたらしたのだった。

「西川さん、樟脳で大ミソをつけてしまいました」

 高畑は、蒼ざめて報告にきた。損失額の大きさに西川は驚いた。じぶんだけでは処理できない。「金子さんにも知らせなさい」と申し渡した。

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