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“好き”と“楽しむ”の違い

2008年9月12日(金)

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 大阪城ホールのコンサートに行った。巨大なホールを満席の客がひしめき合い、胸を高ぶらせていた。その日は著名ベテランアーティストたちが集結するコンサートだった。

 開演と同時に客席には嬌声が飛び、もはや信仰の対象のようになっているカリスマアーティストに皆が陶酔していった。数曲歌い終え、やがてフリートークとなった。

 アーティストたちの多くは60歳近い。トークの中身はおのずと病気自慢になった。アーティストの一人、松山千春は自身の心筋梗塞を熱く語り、ほかの一人は肝炎をひょうひょうと語った。「それ死ぬ病気ちゃうん」というツッコミに笑いがくる。

 病気話が暗くならずに盛り上がったのには理由がある。ファンもまたアーティストと共に年を取り、似た年齢になっている。それぞれに病気を抱えての参加なのだ。

 私の隣の知人は心臓病を抱えて何度もうなずいていたし、その隣は病んだ神経を癒しにコンサートに来ていた。病気話はつまりは、その日の空間においてはとってもタイムリーな話題だったのだ。

 数日後、道で偶然、昔世話になったテレビ局の元社員に会った。彼は当時ではめずらしく早期退職を果たし、50歳で自分の人生を気楽に気ままに過ごす選択をした独身主義者の男性だった。その男性が開口一番言ったのは、「俺、心臓病になってなぁ」だった。

 今は食事制限や酒量制限があり生活があまり楽しくないという。

 そもそも病気は過度なストレスや不摂生が原因だと理解していた。この男性はタバコも吸わず、50歳で隠遁生活だったのになぜと思い、病気になった理由を聞いた。

 「50歳で会社辞めたけど、翌年に心臓病になったから、辞めたとて取り返しのつかないストレスを蓄積していたことが分かった」のだそうだ。

 アーティストたちもまた、その中の数人を私は知っているが、楽屋では過度なストレスから怒鳴り散らしたり神経を尖らせている姿を私は目撃してきた。好きな音楽をやれているからといって、ストレスから解放されるかどうかは別問題なのだ。

 私もまた好きな職業を選択したつもりだ。わがままが高じ、たった一人で労働できる“作家”という仕事にもつけた。好きな時に書き、言いたいことを喋るバラエティ番組に出ながら、ストレスで倒れる会社員たちを哀れんでもいた。

 すると先日、私もまた救急病院に運ばれるハメになった。「過度なストレスと疲労ですねぇ」と医師が原因を言った。

 「へ!?」と思った。私もまた、病気軍団と無縁ではなかったのだった。

「遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」」のバックナンバー

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「“好き”と“楽しむ”の違い」の著者

遙 洋子

遙 洋子(はるか・ようこ)

タレント・エッセイスト

関西を中心にタレント活動を行う。東京大学大学院の上野千鶴子ゼミでフェミニズム・社会学を学び、『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』を執筆。これを機に、女性の視点で社会を読み解く記事執筆、講演などを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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