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朱鷺(トキ)と共生する里山作りが離島を救う

莫大なコストを費やし回復させた自然環境が佐渡島を活性化

  • 宮嶋 康彦

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2008年9月24日(水)

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 飼育されてきた朱鷺10羽が、いよいよ明日25日、佐渡の野生に還される。1981年、国内に生存する野生の朱鷺5羽を捕獲、増殖が図られてから27年、ようやく行政の檻から野に放たれる。

 その間に日本産の朱鷺は1羽のヒナが孵ることもなく絶滅。その後、中国から贈られた番(つがい)が順調に繁殖し、現在の飼育羽数は122羽になっている。

 これまで投入された税金は50億円を下らないという。一度失われた自然を取り戻すために、なんと高くついたことか…。

かつて農家に「害鳥」といわれた朱鷺

 人口約7万人の佐渡は知られざる米どころ。稲作が要の島だ。6500ヘクタールの水田でおよそ1万人の農協組合員が米作りに精を出す。佐渡米の評価は高く、食味は魚沼コシヒカリと比較しても遜色がないといわれるほどだ。

 折りしも稲刈りの時期、朱鷺の野生復帰ステーションがある高台から見下ろす広大な田園は、田ごとに濃淡が異なる黄金色のパッチワークを見るようで美しい。モミを焼く煙が落日前の太陽に照らされて山の手から真野湾に向かってたなびいている。時おり飼育ケージの朱鷺が、タァーと鳴く。

 かつては、朱鷺の生息地の農家に害鳥とまでいわれた鳥である。魚沼地方の鳥追い唄には、「朱鷺と鷺が最も憎い」と歌われた。美しい羽の色を持つため乱獲され、あるいは、農法や環境の変化によって数を減らしていった。国の特別天然記念物に指定されたり、国際保護鳥に認定されたりしたが、絶滅を止めることはできなかった。

田を荒らされたら…と不安を口にしながらも飛ぶことを祈る

 やがて国の名を学名(1871年、大英博物館がNipponia nipponと命名・日本の鳥という意)に持つ鳥は、その知名度の高さもあって、国家事業として絶滅からの救済措置が計られることになる。多額の予算が付き、日本の動物保護の象徴的な鳥になっていった。

 試験放鳥が予定されている朱鷺は10羽。先週訪問したときは“放鳥箱”が作られていた。「これから朱鷺を捕まえて箱に入れる作業が大ごとなんです。事故がないよう祈るばかりです」と、トキ保護センターの戸貝純夫所長は緊張した面持ちで話した。

 放鳥の記念式典には皇室関係者も招かれていると聞く。観光イベントは目白押し、農業関連でも、放鳥記念式典に同調して稲の刈り取り式が行われる。

 島内では食堂に入っても床屋で順番待ちをしていても「もうすぐ朱鷺を放す日やなあ」という挨拶がわりの言葉が聞かれる。しかし、農家の反応は街場とは事情を異にしていた。

 「むかしは憎っきい鳥やったさ、田植えをした後から苗を倒すもんやから、朱鷺がきたら石投げて追い払ったがね、今度だって、飛んできたらどうしたもんか、心配だよ」

 佐渡市農政課には、生産者の放鳥に対する不安や不満の声が寄せられている。

 「作業中に朱鷺が飛んできたら仕事を止める必要があるのか」
 「田畑を荒らされてもがまんするしかないのか」
 「農薬なしには米は作れないが、今までどおり撒いてもいいのか」

 黄金色に極まった田園に車を走らせ、農家の人に放鳥の意見を聞き歩いた。野生の朱鷺が生息していた時代を知る人に、朱鷺が好きという人に出会うことはなかった。

 しかし、そんな人たちも、朱鷺が再び佐渡の空に舞うことを、瑞鳥の訪れでもあるかのように、「飛んでくれるかの、飛べばいいけどな」と祈るような言葉を重ねるのだ。

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