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本店焼き討ち、「買占め」の汚名

丁稚が創った世界企業~金子直吉伝・13

  • 山岡 淳一郎

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2008年10月6日(月)

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前回までのあらすじ)

 第一次世界大戦が始まった1914(大正3)年から、わずか5年間で日本のGDPは約3倍に増え、工業生産高も5倍増を記録した。この超高度成長を支えたのは「輸出」だった。

(イラスト:茂本ヒデキチ)

 戦火が拡がる欧州に向けて、軍需品を中心に物資を送り出す。生産体制が崩れたイギリスに代わって、アジアに綿製品をどんどん輸出する。砂糖や小麦、豆類を三国貿易で欧州に運びこむ。国際収支は黒字が続き、外貨保有高は一挙に6倍となった。

 しかし、戦争終結の気配が漂ってくるにつれ、輸出頼みの日本は厳しい現実に直面する。その衝撃の第一波が、参戦を表明したアメリカからの「鉄材輸出禁止令」だった。鉄鋼供給を米国に依存していた造船・海運界は、たちまち「鉄飢饉」に見舞われた。政府間交渉ではラチがあかず、ついに金子直吉が立った。

 金子は、対米交渉の前面に立って禁輸を解かせ、供給された鉄材で一定量の船を造って米国に納め、残った鉄材を新造船に向ける「日米船鉄交換契約」をまとめた。日本側の船舶45隻25万トンと米国鉄材28万5千トンが交換される。日本は余った鉄で33万トンの船を新規に保有した。

 金子直吉、おそるべし。その名声は、内外の経済界に響き渡った。

 だが……快挙は、金子と鈴木商店の運命的な峠でもあった。経済が超高度成長を続ける陰で、国民の経済的な格差は開く一方だった。貧富の差が「時勢」を動かした。
 1918年8月、金子は東京に出張する列車のなかにいた。日米船鉄交換の交渉相手だったモリス米国大使との会談に向う途中だった。汽車が静岡駅に着いたところで、ボーイが電報をもってやってきた。

金子は、おや、いまごろ、なんだろう、と開いた。
「イマ ホンテン ヤキウチサル」。

    *     *     *

 真夏の夜、神戸・湊川公園に集まった大群衆は、鈴木商店の「米買占め」を糾弾するアジ演説に興奮した。目を血走らせて「やれ! やってしまえ」とこぶしを振りかざす無頼漢を先頭に、群集は、どッと動き出した。労働者は、まる一日働いても1升5合の米を買うのがやっとだった。米の値段が天井知らずで上がっているのは、悪徳商人、金子率いる鈴木が買占めているからだ、と群衆は信じきっていた。 目指すは東川崎町の鈴木商店本店である。

 道々、「どこへいく」「鈴木をやりにいく」「よし、おれも」と群衆は膨れあがった。

 1918年8月12日、ミカド・ホテルを転用した三階建ての壮大な鈴木本店は、二万人の大津波に呑まれた。投石で窓ガラスが割られた。敏捷な男が、猿のように雨どいを伝って建物を登り、窓から侵入する。内側から扉を開いた。

「叩き壊せ!」
「火を放て!」

 と、わめきながら躍り込んだ一団は、帳簿を破り、机をひっくり返して放火する。

 世界に冠たる鈴木のヘッドクォーターは、瞬く間に紅蓮の炎につつまれた。焼打ちを知った西川文蔵ら鈴木の社員が駆けつけたが、群衆の壁に阻まれて裏口からしか入れない。書類を少し持ち出すのが限界だった。暴徒は、栄四丁目の鈴木家旧宅も襲い、家具や布団を引きずり出して燃やした。精米所や神戸製鋼の米蔵も襲撃を受けた。

 カンカンカーン! カンカンカーン!

なぜ民衆は鈴木商店に牙を剥いたのか

 半鐘の音が、夜空を焦がす炎に吸い込まれる。日付が変わった未明、鈴木系列の日本樟脳会社も火をつけられ、焼け尽した。都市の底辺に押し込まれた人びとの憤怒は、鈴木商店という格好の標的に向けられた。「越中女一揆」に発した米騒動は神戸へ飛び火し、鈴木商店は米買占めの元凶とされ、その本丸は焼け落ちたのだった。

 鈴木が米を買占めた事実はなかった、にもかかわらず……。何が民衆を凶行に駆り立てたのだろうか。

 汽車のなかで「イマ ホンテン ヤキウチサル」の電報を受け取った金子は、半信半疑だった。電報の発信元は丸ノ内になっていた。金子は、東京のならず者が脅してきたのだろう、と思った。下手に東京駅に着けば襲われるかもしれない。とっさに横浜駅で降りて電車に乗り換え、新聞を買って広げてみた。金子は、……絶句した。

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