人員削減、成果主義の導入、非正規雇用者の活用…。1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本企業はそれまでの雇用慣行にメスを入れることで激しい環境の変化を生き延びた。その一方で、日本企業の競争力の源泉、社員に深刻な危機が訪れる。日経ビジネスが描いた日本経済の40年、かつて「気楽な稼業」と流行歌に歌われた世界に訪れた変化は今も経営の大きな課題だ。
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2005年10月24日号より
価値創造の源である「人」を不幸にしたままでは、繁栄は続かない。
リストラに追われた企業はここ数年、その当たり前の事実を忘れていた。
バブル期に匹敵する好業績の今こそ、社員重視へ舵を切る時だ。
(松浦 由希子、篠原 匡、中野 貴司、小路 夏子)
「先行きが見通せず、安心してローンも組めない社員が、会社の将来を考えるわけがない。企業がリストラや賃下げなどの『切る論理』で最高益を上げても、結局、タコが自分の足を食べて死んでいくようなものだ」
昨年ビジネス書のベストセラーとなった『虚妄の成果主義』の著者、高橋伸夫・東京大学教授は、今の日本企業の経営を痛烈に批判する。
グローバル競争が激化し、企業が経営効率化を徹底追求する陰で、労働者は明らかに疲弊してきた。前章までに見てきたように、現場で働く日本人の多くは今、企業業績の回復を実感できずにいる。
正社員が減る一方で、派遣やパートといった「いつでも切れる」非正規労働者が急増し、雇用と所得の2極化が一気に進んだ。総務省の労働力調査によると、今年4〜6月の平均正規雇用者数は3408万人で、非正規雇用者数は1624万人。5年前と比べ、正規雇用者は222万人減り、非正規雇用者は351万人増えた。その結果、役員を除く雇用者全体に占める非正規雇用者の割合は26.0%から32.3%に拡大した。
働き方の多様化と言えば聞こえはいいが、実態はそんなにきれいな話ではない。「正社員は労働強化を強いられ、非正規雇用者は雇用不安と低賃金に甘んじなくてはならない。コインの表と裏のようなもので、どちらにしても労働者の肉体的、精神的負荷は強まるばかりだ」(労働問題に詳しい中野麻美弁護士)。
「競争のしわ寄せが職場に」
効率最優先の経営システムに組み込まれた労働者は悲鳴を上げ、労使関係はすさんでいく。厚生労働省によると、都道府県の労働局や労働基準監督署に持ち込まれる「民事上の個別労働紛争」の相談件数は、2004年度に16万166件に達した。相談内容の内訳は「解雇」が27.1%で最も多く、「労働条件の引き下げ」(16.0%)、「いじめ・嫌がらせ」(8.1%)がこれに続く。
相談件数は2年前と比べて55%増えており、企業業績が回復し始めた後も労働環境の厳しさは変わらないことを示している。件数が増える中で、相談内容の内訳に占める「いじめ・嫌がらせ」の比率は2.3ポイント増加した。
労働者の権利を守るための相談活動などに取り組む法律家団体「日本労働弁護団」の事務局長、小川英郎弁護士は言う。「ここ数年、会社都合による整理解雇の相談が減る一方で、懲戒解雇、規律違反などを理由にした解雇や、職場でのいじめ・嫌がらせの相談が著しく増えている。厳しい競争を強いられる中で企業が余裕をなくし、そのしわ寄せが職場の歪みとなって表れている」。
先日は、自宅で発作的に叫び出し、マンションから飛び降りかけた会社員が、妻に付き添われて相談に来た。「本人は疲れ果てて考える余裕を失っており、両親や妻が相談を持ちかけてくるケースも多い」(小川弁護士)という。
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